学校法人
認定こども園 聖愛幼稚園

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Last Update: 24/04/14

赤鬼からの手紙・・・1978年から1981年までのたった3年間、甲府の中心地に児童書専門店『赤鬼』と いう小さな本屋さんがありました。当時は希少な絵本中心の児童書専門ということで、地元山梨のみならず 全国にファンが広がっていた素敵な本屋さんでした。その後、一男二女の母となった赤鬼は子育ての大事業を 志し、後に東京都練馬区教育委員会の教育委員を務める等、常に母親の立場から目覚ましい活躍をしてきました。 今も文部科学省委託事業『新教育システム開発プログラム』作成に参画して日本国中を東奔西走しています。 赤鬼と小学校以来の幼馴染の私は、3年ほど前から故郷山梨の子どもたちのために絵本の紹介を 書いてくれるようお願いしてきました。やっとこの2007年5月から毎月お手紙をもらえることになりました。 赤鬼おススメの絵本は、聖愛幼稚園の子育て支援センター『あんぱんくらぶ』の本棚でいつでもご覧いただけます。 なんたって『赤鬼からの手紙』です。どうぞ、お楽しみに。(園長 鈴木)




赤鬼からの手紙(2024年4月号)



『木にとまりたかった木のはなし』

黒柳徹子
武井武雄

河出書房新社 刊

   4月は、新年度のはじまりです。 子どもたちにとっては入園式、入学式、大人にとっても入社式というのもありますね。 この季節は「新」という文字がたくさん溢れます。 新しい制服や帽子、鞄、文房具、新しい教科書、新しい先生や新しい友達。 新しく出会うものすべてが、これから始まる生活への待ち遠しい気持ちを後押ししてくれるような気がします。

   このお話は、全く新しい考え方で、今までやったこともないようなことに挑戦した「木」のお話です。

あるところに木がありました。
いろんな鳥が、その木にとまっては、じぶんたちが みてきた せかいじゅうのことを はなしあいました。そして、鳥たちは さいごには かならず こういうのでした。
「ああ、木にとまるのって、きもちがいい!」

ある日、木がいいました。「ぼくも 木にとまってみたい」
「いつも しんせつに とまらせてくれる 木のおねがいだもの、どこか みはらしの いい木に とまらせてあげよう!!」 鳥たちは、みんなで 木を もちあげました。
木は、空を とびまーす!
おかのうえに たっている 大きな木のうえに とまった木は うまれて はじめてみる、いろんな けしきをみて とっても びっくりしました。
「あの青くて 高いものは なあに?」 「あれは 山!」
「子どもが あそんでいるところは? 「こうえんよ!」
「それから 赤いやねの塔は?」 「とうだいよ」 「あの音は?」
「きょうかいのかね!」
「あれは なあに?」それは 海でした。
木はとても海が きにいったようすでした。
「ほんとうだ、木にとまるのって きもちがいい」
「あの海にうかんでいるのは なあに?」 「あれは 船!」
「ぼくは あの船にも とまってみたい!」
木は また空をとびまーす!

とうとう木は、船にとまりました。よろこんだのは 船長さんでした。
その船は あらしで マストがおれて、うごけなかったのです。
船長さんは おふろばから おふろおけを もってくることにしました。
船長さんは おれたマストのかわりに 木にロープや 帆をはりました。
さあ、しゅっぱつです。
船は どんどんすすんで 南極に つきました。ペンギンやアザラシにあいました。
海がだいすきな木も あらしのときは とってもこわいと思いました。
木は かみなりがきらいでした。
あたまにかみなりが おちてきて、まるでハゲになった 木の友だちのことを 思い出したからです。
船は こんどは あたたかいほうに すすみました。
木は きれいな 花をさかせました。
木に実のなるきせつがきました。
おなかをすかせた たくさんのこどもたちが 船のまわりにきました。
船長さんは つぎつぎに 赤いおいしい実を 子どもたちにわけました。
子どもたちは、おれいに、じぶんたちでつくった がっきで おんがくをえんそうしました。
たべた木の実のたねを じぶんたちの島にもってかえり、まきました。
芽をだし、木になり、花がさき、実がなり、それからというもの こどもたちは おなかをすかせることは ありませんでした。

なんねんかが たちました。空をとんだ あの木も、すっかり としをとりました。
木は船からおりて、みはらしのいい 丘のうえに 根を下ろしました。
そして、わかい鳥たちがくると わかいころの、空をとんだぼうけんばなしをして、きかせました。

みなさん!きょうも 空をみて ごらんなさい。
もしかすると、鳥たちが はこんでる 木にとまりたかった木が みつかるかも しれませんよ。
みなさんだって、木にとまってみたいと おもうでしょ。
これは、そうおもっている 女の人がつくった おはなしです。

   この絵本に出会った時、最初に頭に浮かんだのが、長新太さんの「ぼくはイスです」でした。 〜〜〜「みんなぼくの上に腰かけるけど、ぼくも何かにこしかけてみたいな」そう思ったイスは、さっそく、あちこちにこしかけてみます。 〜〜〜イスの大冒険の話です。私も我が子たちも大好きな作品でした。 長新太さんの絵本は、今まで見てきたこととは別の視点で周りを眺めてみる、そうすると全く別の世界が広がることを伝えてくれました。

   この作者の黒柳徹子さんもきっと、そんな人とは別の目線を常に持っている方なんだと思います。 彼女の子供の頃を描いた作品「窓際のトットちゃん」にも通じた場面がたくさん登場します。 〜木が木にとまりたい〜なんて、誰も気が付かないかもしれませんよね、でも徹子さんは日々そう思っていたのでしょう。 木登りが大好きで、日常の生活にあるっていうのは、目線の変化の基本だったのかもしれません。

   この作品の誕生についての、エピソードは、作品の中にも紹介されていますので詳細は省きますが、何といっても武井さんの描く絵の世界がなんと素晴らしいことでしょう。 子どもの向けの絵を「童画」と命名して、芸術にまで高めた人です。 この人の力なくては、今の絵本に繋がらなかったもしれません。 しかも、武井さんの絵は時代を超越した新しさがありました。当時は新しすぎて理解されなかったこともあったようですが、だからこそ、今も全く古びることなく輝きを放っています。 武井さんの絵が大好きだった徹子さんのお願いを笑顔の二つ返事で引き受けた直後に亡くなってしまった、その父の残した膨大な絵探しをしてくださった娘さんのご尽力で完成しました。 そんな二人の、たった一冊の奇跡的な作品です。 ここでは、ほんの一部での紹介ですので、黒柳さんが伝えたかったことの言葉の深さとまるで言葉を知っていたかのような武井さんの絵の世界ぜひ手に取って感じてください。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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赤鬼からの手紙(2024年3月号)



『 たんぽぽ 』

甲斐信枝 作・絵
金の星社 刊


   日ごとに太陽がいっぱいの暖かな陽射しが届いています。春一番が吹いたというところもあります。あたりはもうすっかり春を迎える準備が整っているようです。ちょっと散歩に出ると、ついこの間まで、ふきのとうがふっくらしていた近くに銀白色のネコヤナギがふくふくとキラキラしていました。木の芽たちも今か今かと、黄緑色の頭をのぞかせています。そうそう、足元を見てみたら知らないうちに、あの黄色の小さな蕾が今にも咲きそうに微笑みかけてくれていました。

かれくさの なかで、じっと はるを まっている くさ。
たんぽぽだ。 たんぽぽの つぼみだ!

ことし はじめての たんぽぽが、そおっと ひらいた。
だんだん あたたかくなる。
たんぽぽは あんしんして せいを のばす。

たんぽぽも おひさまに あたりたくて、どんどん のびる。

あさ おひさまの ひかりで、たんぽぽたちは めを さます。
おひさまを みあげて くらす。
ゆうがた、たんぽぽが ねむる。
さむい ひは、いそいで ねむる。あたたかい ひは ゆっくり ねむる。

あめ。そっと はんぶんだけ ひらいて じっと おてんきに なるのを まっている。

みんな めを さましたのに ひとつだけ ねたまま。
どうしたのかな?
なんにちか たった。あの たんぽぽが おきあがっている。
みどりの ほっぺたが ふくらんでいる。

わたげだ!
まっしろの ぴかぴかの わたげだ!
いちにちじゅう かかって そろ そろそろと ひらいた。

おおきなかぜが きた!
わたげたちは はっと、ひとおもいに かぜにのる。
おもいおもいに とびちっていく わたげたち。
はらっぱじゅうが わたげになる。

なんびゃく なんぜんの こどもたちを、こころを こめて みおくった たんぽぽ。
しばらくすると、あたらしい しごとに とりかかる。

たんぽぽは ふゆを こえて、つぎの はるには、
もっと たくさんの はなを さかせる。


   「たんぽぽ」という書名の絵本は、植物の絵本の中でもダントツの多さと言ってもいいでしょう。私たち日本人にとって、一番馴染み深く身近な植物が「たんぽぽ」なのかもしれません。冬の厳しさから、一気に春の穏やかな空気を運んでくれるのも、みんなが好きになる理由でしょう。私自身も大好きな花の一つです。

   絵本のジャンル分けには、”ものがたり系”と”かがく系”という分け方をされるものがあります。絵本出版社の中でも代表的な存在が福音館書店ですが、幼稚園などに配布される月刊絵本に「こどものとも」があります。これは”ものがたり系”になります。今では、月齢に合わせた年長、年中、年少、生後半年ごろ〜2歳まで4段階を対象にした絵本があります。同様に月刊絵本「かがくのとも」は”かがかく系”です。対象も4歳前後から、5.6歳と小学生中学年からのものまで3段階が出版されています。作者の甲斐信枝さんはこの「かがくのとも」の作品を数多く出されています。 科学というと、知識を得る書物と思いがちですが、絵本の場合はそうではありません。絵本の中の科学は「知る」ことよりも「感じる」ことが、大切だという事を伝えてくれます。

   残念ながら昨年11月30日、93歳でなくなられてしまった甲斐さん。残された多くの作品は身近な草花への愛情にあふれています。金の星社出版では、この「たんぽぽ」は科学というジャンル分けはされてはいません。でも、甲斐さんの作品は植物としてのたんぽぽへの科学の視点をしっかり踏まえています。たんぽぽの一生を正確にとらえつつ、たんぽぽを母の愛になぞらえて、巣立ちの子どもを見守る姿まで届けてくれます。また、精巧に緻密に描かれた絵の素晴らしさにも目を奪われます。目を草花と同じ高さにしながら、虫メガネでじっと見つめる続ける姿が忘れられません。雨上がりのつゆだまの美しさに宇宙を見出した甲斐さん、たくさんの素敵な世界をありがとうございました。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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赤鬼からの手紙(2024年2月号)



『おにの子こづな』

木暮正夫 ぶん
斎藤博之 え


   毎年めぐってくるこの季節、2月は鬼月間です。1年で一番寒いのもこの時期ですが、このところの日差しは冬とは思えないほどの温かさを運んでくれることもあります。とはいえ、冷たい風が吹き、雪が舞い散るのも忘れてはいけません。

   元旦の夕刻に大地震に見舞われ、多くの命が奪われてしまった北陸、能登に思いを馳せています。多くの建物、多くの道路、全てが傷ついたままの様子に胸が痛みます。同時にこの厳しい寒さのなか、降りしきる雪の中を、懸命に乗り越えようとする人々の姿も、日々伝わってきます。全国からの手助けが届けられている様子も見受けられるようになりました。何とか、一日も早く日常の生活が戻るようにと願うばかりです。

 むかし、あるところに、じさまと むすめがくらしていた。
きゅうにそらが くらくなったと おもったら 「むすめを おれのよめに もらうぞ!」おにが むんずと むすめを かかえあげた。むすめは 山おくの おにの すみかに つれてこられた。しかたなし おにと くらすうちに おとこの こが うまれた。
おには にかにか よろこんだ。こどもは こづなと なづけられ そだっていった。
 じさまは むすめを あんじて なきくらしておったが あるひ、にぎりめしや わらじを たんとつくって、むすめを さがしに でかけた。じさまが のをこえ 山をこえていくと どこからか はたおりの おとが きこえて きた。 じさまが ながめると、おとこのこが あそんどる。
「ここの うちの こどもかい?」
よくみると おとこのこは ちんまい つのを はやしておる。
じさまは たまげた。ここは おにの すみかか。
「おら、こづな。おとうは でかけとるが、おっかあは はたを おっとる。」
「なんと、おらの むすめで ねえか」 むすめも たまげた。
「こんやは ゆっくり とまっていってくれ。」「とまったら、おにに くわれや せんか。」
こづなが むねをたたいた。「おらと おっかあで、くわれんように するから。」
おにが かえってきた。「ひとくさい とおもったら じさまでねえか。」
おには むらむらと くいたくなった。「おれと なわないくらべをして、じさまが かてば あきらめるが、まけたら とって くう。」
わしゃわしゃ がしゃがしゃ・・・。おにの なわないの はやいこと はやいこと。
こづなは おにの うしろにまわり、なわをちょんぎっては じさまの なわに つぎたした。じさまの なわのほうが わずかに ながい。おには くびを ひねった。
 「こんどは まめの くいくらべだ」そこで、こづなは おにの いりまめに こいしを まぜた。「こりゃ かたくて どうにもならん。」 しょうぶは これで おしまい。
 つぎのあさ こづなが おにの たからものの 五ひゃくりぐるまを ひきだしてきた。
「このくるまで 三人して にげるべ」
おには 千りぐるまで おいかけてきたが、かわをわたることが できん。
おには かわの ながれを ごくごく のみはじめた。
五ひゃくりぐるまは たちまち おにのほうへ すいよせられていく。
けれど こづなは へいきなもの。「おらに まかせろやい!」
こづなは おしりを ぱっと まくると、しりを ふりふり ぺんぺん たたいた。
その おもしろいこと。 おには こらえきれなくなって「ぶはっ、ぶははははは・・・・・・。」
のんだ かわのみずを ふきだした。その いきおきで じさまの さとへ まっしぐら。
うちのまわりに おにの きらいなしょうぶを うえて、三にん なかようくらしたと。

   年に一度の「鬼の絵本」の出番です。毎年何冊も、並べては、何にしようかと頭をひねります。今年は 東北地方につたわる民話にしました。この絵本は、文を書かれた木暮正夫さんによれば、岩手県に伝わる民話だそうです。調べてみると、宮城県、山形県、富山県、遠くは奄美大島にも似たお話があるそうです。節分の風習にある、イワシの頭に、ヒイラギの枝を刺して家の戸口に飾ることや、「福は内押しは外」の豆まきの由来もこの「鬼の子小綱」からと言われる地方もあるそうです。

   まるで図鑑のようだと思いがちですが、あの分厚い図鑑ではない、この絵本の形がより花々たちを身近に感じさせてくれます。実は一般的な図鑑よりももっと、教えてくれることがたくさんあるのです。もちろん、生物としての確かな知識に基づいた記述も、わかりやすく説明されていますが、歴史、文学、芸術、習慣、食べ方、遊び方、楽しみ方…初めて目にすることもたくさんあります。前田さんの生物に対する視点には、知識だけではなく、生き物すべてへの愛情の様なものが溢れていることが伝わってきます。一つ一つに向き合いながら描かれている果てしない時間と深い洞察の眼が、豊かさを増しています。

   鬼の子であるにもかかわらず、人食い鬼の父から逃れ、母とじさまを救い出す こづなの勇敢さと、知恵と、滑稽さにおそれいってしまいますね。息子の仕業に、思わず笑いこけてしまう人食い鬼の父は、息子に免じて諦めたのかもしれません。鬼の子でもあるのにもかかわらず、母としてこづなを 大切に育てていただろう娘の想いも こづなに届いていたのでしょう。日本には、こんな不思議な民話の世界が全国に散らばっています。そのお話の中には、必ず私たちが大事にせねばならないことが潜んでいます。

   旅に出たら、そんな民話の世界を覗いてみるのもいいですね。そんな春よ、早く来い!

(赤鬼こと山ア祐美子)

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