学校法人
認定こども園 聖愛幼稚園

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Last Update: 25/07/05

赤鬼からの手紙・・・1978年から1981年までのたった3年間、甲府の中心地に児童書専門店『赤鬼』と いう小さな本屋さんがありました。当時は希少な絵本中心の児童書専門ということで、地元山梨のみならず 全国にファンが広がっていた素敵な本屋さんでした。その後、一男二女の母となった赤鬼は子育ての大事業を 志し、後に東京都練馬区教育委員会の教育委員を務める等、常に母親の立場から目覚ましい活躍をしてきました。 今も文部科学省委託事業『新教育システム開発プログラム』作成に参画して日本国中を東奔西走しています。 赤鬼と小学校以来の幼馴染の私は、3年ほど前から故郷山梨の子どもたちのために絵本の紹介を 書いてくれるようお願いしてきました。やっとこの2007年5月から毎月お手紙をもらえることになりました。 赤鬼おススメの絵本は、聖愛幼稚園の子育て支援センター『あんぱんくらぶ』の本棚でいつでもご覧いただけます。 なんたって『赤鬼からの手紙』です。どうぞ、お楽しみに。(園長 鈴木)




赤鬼からの手紙(2025年7月号)



『 さとうきび畑 』

寺島尚彦 著
葉 祥明 イラスト
二見書房


   今年の夏も暑くなりそうです。 沖縄は、日本で一番最初に暑さが伝わる地域です、梅雨明けも早いですね。 その沖縄は今や世界中に知られた一大リゾート地として、多くの観光客が訪れます。 輝く太陽、青く澄んだ海、南国特有の花々は、訪れた人々の気持ちをウキウキさせてくれます。 でも、そんな沖縄には、語り続けていかねばならない大切なことがあります。

   今年で、第二次世界大戦から80年が過ぎました。 沖縄は、米軍が足を踏み入れた地上戦があった場所です。 どんなことがあったのか、知っておくことから始めてみませんか?

ざわわ ざわわ ざわわ
広いサトウキビ畑は
ざわわ ざわわ ざわわ
風が通りぬけるだけ
今日もみわたすかぎりに
緑の波がうねる
夏の陽ざしの中で

ざわわ ざわわ ざわわ
広いサトウキビ畑は
ざわわ ざわわ ざわわ
風が通りぬけるだけ
むかし海の向こうから
いくさがやってきた
夏の陽ざしの中で

ざわわ ざわわ ざわわ
広いサトウキビ畑は
ざわわ ざわわ ざわわ
風が通りぬけるだけ
あの日鉄の雨にうたれ
父は死んでいった
夏の陽ざしの中で

ざわわ ざわわ ざわわ
忘れられない悲しみが
ざわわ ざわわ ざわわ
波のように押し寄せる
風よ悲しみの歌を
海に返してほしい
夏の陽ざしの中で

ざわわ ざわわ ざわわ
風に涙はかわいても
ざわわ ざわわ ざわわ
この悲しみは消えない

   皆さんも一度は耳にしたことがあるでしょう。 森山良子さんが歌う「サトウキビ畑」の絵本です。 葉祥明さんの絵が、ほんとに美しく、悲しく、温かく、ページをめくるたび、風が吹いてくるような気がします。 歌詞の言葉一つ一つの意味合いが表現されています。 この歌詞は11連まである長い歌です。 全部歌うと10分以上になるそうなので、TVなどでは、カットして歌われますが、森山さんのコンサートなどでは、全ての歌詞を歌われるそうです。

   この歌についてのエピソードを、森山さんが語られるのを聞いたことがあります。 「サトウキビ畑」は、作詞作曲した寺島尚彦さんが、デビュー間もない19〜20歳の森山さんに歌ってほしいと贈った曲。 でも、当時の森山さんは、戦争も知らない私が、戦争の歌は歌えないと・・・30年間歌っていなかったそうです。 それが、ちょうど湾岸戦争で自衛隊派遣が世論を騒がせていたころ、森山さんのお母様が「恋だの愛だの、軽いラヴソングばかり歌って、ちゃんちゃらおかしい、あなたにはもっと歌うべき歌があるのでしょ」と叱咤したのだそうです。 そのお母様の叱咤を受けて、あらためて「サトウキビ畑」と向き合うことになったとのこと。 「ずいぶん時間かかっちゃったけれど、年月を経て、いろんな経験をしたからこそ、歌えるようになったのよ」と。

   この絵本の末尾に葉祥明さんの「あとがき」の言葉があります。

戦争は、もう終わりましたか?
それとも、まだ続いていますか?
いくさは、また起ころうとしているのでしょうか?
それとも、もう始まっているのでしょうか?
さとうきび畑は、私たちにそう語りかけているようです。
ざわわ、ざわわ、ざわわ・・・・・という、
さとうきび畑を吹き抜ける風の音。
そして、遠くの波の音が、私たち人間の
荒ぶる心、傷ついた心、悲しみの心をやさしく癒してくれているようです。
この一曲の美しい歌が、戦争を阻止する力強い心の砦となることを願って・・・

葉 祥明

(赤鬼こと山ア祐美子)

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赤鬼からの手紙(2025年6月号)



『 ぺこぺこ 』

佐 野 洋 子 作
新装版 講談社
(右写真は旧版)


   だんだん雲行きが怪しくなってくる6月ですが、山々の木々も足元の花々も、太陽の日差しとともに、水が無ければ輝きを増すことはできません。だからこの時期を待っています。 私たちは喉がかわけば、水を飲みます。植物も同じです。大きな畑も小さな畑も、水やりは大事な作業です。そのあらゆる水分の源は雨水です。今地球は温暖化が加速しています。 ますますヒートアップ・・・でも、そうさせているのは人間の仕業です。だから、私たち人間が知恵を集めなければ、地球は壊れ続けていきます。 自分の土地だけではなく、相手の土地も守らなくては、地球全体を救うことにならないのです。 愚かにも相手の土地を奪っても、そもそも人間が、生きていくことができない土地になってしまうかもしれません。

「おとうさん、おはなしして」
「どんな おはなし?」
「ぺこぺこしたやつ」

「むかし むかし あるところに、おうさまがいた。
そのおうさまは ちっとも いばらなかった。
まいにちおきると、おきさきさまに ぺこぺこ けらいに ぺこぺこ、 にわのくじゃくに ぺこぺこ。あるひ ごはんをたべていた。
おうさまは ぺこぺことコックに おじぎをした。
おさらのうえの おさかなに ぺこりと あたまをさげて <いただかせいていただきます>と さかなを たべはじめた。
だいじんが どたどた はいってきた。
<たいへんだ、たいへんだ、これをみろ。めしくってるばあいじゃないぞ>と いっつうの てがみをもってきた。
<いますぐ せんそうをする。せんそうをして、おまえのくにを わしのものにするぞ、えっへん>と、かいてあった。
おうさまは あわてずさわがず、さかなをきれいにたべると ぺこぺこと さかなのほねにむかって あたまをさげた。
だいじんは、そのあいだに たいちょうをよびつけ、<せんとうじゅんび はじめ>とどなった。
おうさまは ゆっくりと おしろのとうのうえにのぼって、ぼうえんきょうで とおくを ながめた。
とおくから いさましく となりのくにの ぐんたいがやってきた。
おうさまは たいちょうにむかって 
<いつものように ぺこぺこたたかうのだ>とさけんだ。
<ぺこぺこ!ぺこぺこ!わかったか ぺこぺこだ> たいちょうは さけんだ。
<おう>とへいたいは いさましくこたえた。
となりのくにのぐんたいは しろをとりかこみ たいほうとてっぽうを うってきた。
こちらの たいほうのたまは、いきおいよく ぶっとぶと てきのまえで ぺこりと おっこちる。
へいたいは ぺこりぺこりと あたまをさげて、ぺこんとじめんにはいつくばる。
となりのくにのたいほうは どかんどかんと うちあがったが、おしろも ぺこりとおじぎをするので あたらない。
となりのぐんたいは すっかり たまを つかいはたしてしまった。
おうさまは、となりのおうさまのまえにゆくと、ぺこりと あたまをさげて
<ごくろうさんでした。おつかれでしたね。わたしたちも つかれました。しょくじを いっしょにしましょう>と いった。
となりのおうさまは <えへん ごちそうになってやろう>と おしろに はいってきた。
そして、いばっていった。<われわれのへいたいは、ひとりもけがにんが でなかった。わがくには せんそうが せかいいちうまいのだ>
おうさまは ぺこりとあたまをさげて <ほんとうに よかった>としずかにいった。
おきさきさまは、おうさまのくびにかじりついて<あなたって、すてき、ふんだ>といって、キスをしたのさ。」。

「それから?」
「おうさまも おしろの にわで、コーラのカンで、カンけりをしてあそんだ。おしまい。」
「ふんだ、おとうさん、ほんとに カンけりのカンが ぺこぺこしたはなしだったね」

   「100万回生きたねこ」の佐野洋子さんの絵本です。 1993年に文化出版局から発売になっていた作品の復刻版です。 原画を新たにスキャンして色鮮やかな一冊になりました。

   実は、佐野さんは、山梨とも関連があります。 北京で生まれ、幼少時を過ごした佐野さんが、敗戦後、引き揚げたのが山梨でした。 その間に、兄弟を亡くされて、ことに大好きだった兄の死は、作品にも影を落としています。 「わたしのぼうし」は、そのお兄さんへの想いが詰まった絵本です。

   2010年に亡くなられた佐野さん、2024年に復刻されたこの「ぺこぺこ」の再登場をきっと喜ばれているに違いないと思っています。 今年2025年は第二次世界大戦から80年。 まさか再び戦争の日々が起こるなど想像もしてなかった世界は、土地を奪い合い、命を奪い合う殺し合いを許してしまっています。 どうしたら、子どもらの命が奪われずに、世界に平和が訪れるのか、日々思い、願い、祈るばかりです。 人間の愚かさと、無力さばかりが、世界中を覆いつくしています。

   ユーモアは、人の世界を豊かに、心を軽くしてくれます。 「ぺこぺこ」にはいろんな言葉の意味がふくまれていますよね、お辞儀のぺこぺこ、缶が蹴られてぺこぺこ、踏まれてぺこぺこ、お腹が空いてぺこぺこ、考え続けていくと、なんだか楽しくなってしまいます。 願わくは、こんなおうさまばかりなら、みんながぺこぺこで、みんなでぺこぺこして、みんなと缶蹴りで決着がついて、おかしくて、わらって、平和な世界になるかもしれません。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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赤鬼からの手紙(2025年5月号)



『たいせつなこと』

マーガレット・ワイズ・ブラウン さく
レナード・ワイスガード え
うちだややこ やく
フレーベル館


   あたりの木々の緑も濃くなってきました。山々も、もくもくと雲がわくように多くの緑を抱えています。花々は、一雨ごとに色鮮やかに咲き誇っています。風はどうでしょう・・・。 頬に気持ちよくそよいで、鯉のぼりの鯉たちを元気に泳がせています。 1年で一番、わくわくした気分にさせてくれるのが5月の風です。 木々も花々も、昆虫や鳥たちも、空も雲も風も雨も太陽も、私たちのまわりにあるすべてのものたちは、自分たちのあるべき姿を伝えてくれています。 さて、私たち人間は、どうでしょうでしょうか、あなたはどうですか・・・

コオロギに とって たいせつなのは くろい と いうこと
グラスに とって たいせつなのは むこうがわが すけてみえること

スプーンは
たべるときに つかうもの
てで にぎれて くちの なかに あうんと おさまり
たいらじゃ なく くぼんでいて ちいさな シャベルみたいに
いろいろな ものを すくいとる
でも スプーンに とって たいせつなのは
それを つかうと じょうずに たべられる と いうこと

ひなぎくに とって たいせつなのは しろく あること

あめに とって たいせつなのは みずみずしく うるおす と いうこと

くさは みどり
くさは おおきく のびて あまく あおい においで
やさしく つつみこんでくれる
でも くさに とって たいせつなのは
かがやく みどり で あること

ゆきに とって たいせつなのは いつも かわらず しろい と いうこと

りんごに とって たいせつなのは たっぷり まるい と いうこと

かぜは ふく
かぜは めに みえないけれど ほおで かんじることが できて
こずえを ゆらし ぼうしを ふきとばして ふねを はこんでいく
でも かぜに とって たいせつなのは
ふく と いうこと

そらに とって たいせつなのは いつも そこに ある と いうこと

くつに とって たいせつなのは あしを つつんでくれる と いうこと

あなたは あなた
あかちゃんだった あなたは からだと こころを ふくらませ
ちいさな いちにんまえに なりました
そして さらに
あらゆることを あじわって おおきな おとこのひとや おんなのひとに
なるのでしょう
でも あなたに とって たいせつなのは

あなたが あなたで あること

   2001年9月の初版から2021年6月で60刷の版を重ねるベストセラーです。 世界中で読み継がれてきた「おやすみなさいのほん」のマーガレット・ワイズ・ブラウンが贈る「The Important Book」この素敵な絵は、カルデコット賞受賞画家のレナード・ワイスガード。そして、訳はあの内田也哉子さん。俳優樹木希林さん、ロックシンガー内田裕也さんの一人娘さんです。独特な環境の中で育まれ、立て続けに両親を失った後も、3人の子育てをしながら、多くの言葉を伝え、様々な発信をなさっています。

   あとがきに内田さんの言葉が添えてあります。〜さまざまなきもちを心の虫めがねでじっくりのぞき込むようにして、翻訳にたずさわった〜と。ワイズによって、表されたいろんなものたちの言葉を、一つ一つ丁寧に見聞きしつつ、敬意をこめた日本語に聞こえてきます。そして、最後のページの「あなたが あなたで あること」この自筆は、旦那様の本木雅弘さんが書かれたそうです。互いを思いやるご夫婦のおもいが絵本からも伝わってきます。

   この場では、ほんの少ししか伝えられていませんが、ぜひ手に取って、絵本に表されたすべてのものたちの声を聞いてください。そして、すぐそばにある、あらゆるものの本来の大切さに気づくことで、私たちにとって大切なものとして、ワイズ・ブラウンが投げかける、「あなたが あなたで あること」を考えてみませんか?

(赤鬼こと山ア祐美子)

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