祈るときにも、あなたがたは偽善者のようであってはならない。
偽善者たちは、人に見てもらおうと、会堂や大通りの角に立って祈りたがる。
はっきり言っておく。彼らは既に報いを受けている。
だから、あなたが祈るときは、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。
そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる。
神さまは、「隠れたところにおられる」とイエスさまはおっしゃいました。詩人金子みすゞ(1903〜1930)の「はちと神さま」という詩は、そのことをやさしい言葉で描いています。
お花はお庭のなかに、
はちはお花のなかに、
お庭は土べいのなかに、
土べいは町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに、
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃなはちのなかに。
すべての存在を包み込んでいる神さまは、同時にどこまでも密やかな存在なのです。
壮大な自然や宇宙を、私たちは外側から見て驚きたいのです。
豪華絢爛な建造物の全容を外側から見て感動したいのです。
でも実は、私たちの心の中にも、その荘厳さに圧倒されるような神さまがいてくださるのです。
目立たないところにこそ、大切なものが潜んでいるのです。
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あなたは施しをするときには、偽善者たちが人からほめられようと会堂や街角でするように、自分の前でラッパを吹き鳴らしてはならない。はっきりあなたがたに言っておく。彼らは既に報いを受けている。施しをするときは、右の手のすることを左の手に知らせてはならない。あなたの施しを人目につかせないためである。そうすれば、隠れたことを見ておられる父が、あなたに報いてくださる。
そもそも善意で行うことに報いを求めたら、それは偽善です。
しかしイエスさまは、人に褒められようとしてするのは偽善だが、神さまからの報いは大いに期待すべきだと言われるのです。
神さまがくださる報いとは、高い評価とか、ご褒美とかではなく、他者を生かすことができた喜びや、人の幸せに立ち会える喜びのことです。
私たちは、利己心が優先している限り、自分の中に相手を生かし、幸せにする力があることを忘れてしまいます。
その利己心から解放されるコツは、「右の手のすることを左の手に知らせない」ことです。
わが子のために思わず手を差し伸べるときに、「今、右手を差し出している」とは誰も意識しません。
つまり、善意に満ちている時、私たちは、自分がどう見えているかなど気にしないのです。
自分を意識することをスッと忘れた瞬間、私たちは人に寄り添っている喜びの中にいるのです。
子どもに向かって、こうしなさい、ああしなさい、こうでなければダメです、言うことをききなさい、という指示を出し続けるなら、子どもはいつも自分の立ち位置を意識しなければならなくなり、しかもそれが、親の気持ちにそぐわないものだと思い知らされ、人に寄り添っている喜びを味わうことができない状態に陥ります。
ただ子どもの気持ちに寄り添ってあげることが時々必要です。
それこそが、子どもの心に人を愛する喜びが芽生える第一歩なのです。
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あなたがたも聞いているとおり、「隣人を愛し、敵を憎め」と命じられている。
しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。
あなたがたの天の父の子となるためである。
父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださるからである。
「天の父、つまり神さまは、善人にも悪人にも等しく太陽を昇らせ、雨を降らせる」とイエスさま言われます。
そして、その神さまからいのちをいただいている私たちは、いわば神のさまの子どもなのだから、同じように等しく人を大切にしなければいけないのではないか、と問いかけているのです。
自分に利害関係がある人だけを大切にするとか、気の合う人だけと付き合うというようなことは、それ自体が悪いことではないわけですが、その狭い仲間意識は、確実に誰かを傷つけ、自分自身の人間としての豊かさを損ねることになります。
「等しく雨を降らせてくださる」という言葉の意味は、「神さまがすべての人の幸せを望んでおられる」ということであり、私たちが、「すべての人の幸せを願う」気持ちを忘れずにいることこそが、人として大切なことなのです。
「すべての人」というのは、具体性がなく、口先だけになってしまいがちですし、自分にとって大切な人の幸せを真っ先に願うのが当たり前です。
しかしイエスさまは、自分にとって遠い存在も、敵とさえ思える存在も、大切な人として包み込む想像力を持ちなさいというのです。
どんな人にも、必ずその人の幸せを願っている誰かがいるということに思い至る想像力が必要なのです。
みんなに等しく雨が降る。みんなに等しく陽が昇る。
その権利を奪ったり、独り占めしたりすることだけはやめなくてはいけません。
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