小さな奇跡
聖愛幼稚園 鈴木信行

去る3月14日(土)は聖愛幼稚園の卒園式でした。たくさんのお客様の前で一人ひとりが小学校での
目標をしっかり自分の言葉で発表して、35名のゆり(年長)組の子ども達が園を巣立っていきました。
毎年の卒園式にはそれぞれに感慨があるのですが、本年の卒園式は特に印象深いものでした。
昨年の11月27日、木曜日のことです。転入園希望の女の子がご両親と共に本園を訪ねてきました。
名前をRちゃんといい、県内の某幼稚園年長組に在籍していました。
数日前に小学校の入学試験で全く予期していなかった不合格の発表を受け、
どうして良いかわからず相談に来たと言うのです。
年少からその幼稚園に入園したRちゃんは新しい環境に慣れるのにとても時間がかかり、
保育者から離れられない生活が続きました。年中に進級してからも新しい1つ1つの刺激に過敏に反応し、
パニックで泣くことが多かったため教育相談に通い、お母さんがカウンセリングを受けること等を通じて、
変化が現れ泣くことが減り2学期終わり頃にやっと一部の特定の友達との関わりができるようになり
落ち着いてきました。しかし、年長の6月に感染症で4日間欠席をしたことをきっかけにまた不安定に
なり当番活動・クラス活動・はじめてのことなどに抵抗感を示すようになり、行事などで他人の視線を
嫌がり動きがとれなくなってしまったり、指示を理解して行動したりすることが難しくなったということでした。
卒園まで実質3ヶ月半しかない転入で、新しい幼稚園生活に慣れないうちに卒園、また、小学校入学という
新しい環境に入っていくことになり、一度で済むつらい思いをわざわざ2度することはないのでは・・・と
心配しました。まして、本園の一大イベント、クリスマス会を3週間後に控えて恒例の聖誕劇やお遊戯の
練習が始まっている、1年間で最も慌しい時期です。ご両親には小学校入学まで少し我慢してその幼稚園に
残ることをお勧めしたのですが、どうしてもという強い希望で、大きな不安を残したまま翌28日から転入園
することになりました。
ところがどうでしょう。12月19日(金)双葉ふれあい文化館ホールの大舞台で演じられたクリスマス会
最大のハイライト、聖誕劇(ページェント)では天使たちの中に、そして伝統の女の子お遊戯『ジングルベル』の
群舞の中に3週間前に転入したRちゃんの喜々として演じ、踊る姿があったのです。まさに奇跡が起きたのです。
今だからお話しますが、Rちゃんが「お友達といっしょにクリスマス会に出る」と自分から希望を口にしたのは
何とクリスマス会本番の2日前のことだったのです。担任は衣装の用意やらセリフ・振り付けの変更やらで
大慌てでしたが、まわりの子ども達は急なセリフや振り付け変更も全く問題にせず、最初からそうであったかの
ように自然に受け入れ、演じていました。
さてさて、どうしてこんなことが可能になったのでしょうか。前の幼稚園では、2年8ヶ月かけてもできなかったこと
です。それはクラスの子ども達に秘密があったのです。
ゆり(年長)組の子どもたちは教室に入れないRちゃんが泣いている姿を見て、誰彼といわず自発的にRちゃんに
声をかけ、遊びに誘います。教室に入れるようになってからもRちゃんが慣れない製作等の活動でさりげなく手助
けをする姿がそこここで見られました。Rちゃんはそんなゆり組の子どもたちに次第に心を開いて、いっしょに遊
べるようになり、幼稚園生活が楽しくなるのにほとんど時間がかかりませんでした。
このクラスは年少時から病弱児1名、知的障害2名(内1名は併行通所のため週2日通園)、広汎性発達障害の疑い
2名を含め35名が在籍し、2グループに分かれて生活してきました。様々な違いのある子ども達がいっしょに生活
する中で、お互いの弱さや強さを自然に、当たり前に受け止め、育ち合い、影響しあうことで楽しく遊ぶこと、
分からないことを教え合う事、困ったときに助け合うことを自然に身に付け、何よりもお友達と一緒に生活する
ことの楽しさ、お友達のかけがえのなさを感じるようになっているのです。共に生きる力が育っているのです。
子どもたちの育ちあいの中で相手を思いやる気持ちが自然に育っていたのです。
ここに聖愛幼稚園が求め続けている子どもの育ちの姿があります。
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