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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2024年11月号)



『そらいろのたね』

なかがわりえこ 文 おおむらゆりこ 絵
福音館書店 刊

   空が高く吹く風も澄み切った季節になってきました。 流れる雲もうろこ雲やすじ雲や、様々な顔を見せてくれています。 少し夏の暑さが残っているのか、紅葉にはまだ早いようですが、北国では一気に寒さがやってきています。 きっと、あれよあれよという間に、近場の山々も1年中で一番美しく化粧してくれることでしょう。 秋の空は、抜けるような「そらいろ」と表現されることがあります。 そんな「そらいろのたね」があるのですって!

 ゆうじが、のはらで もけいひこうきを とばしていると、もりのきつねが かけてきて 「やあ!いいひこうきだなあ!ゆうじくん、その ひこうきを ちょうだい」といいました。 ゆうじは ひこうきと きつねがだした「そらいろのたね」をこうかんしました。

 ゆうじは、いえにかえって、にわのまんなかに たねをうめました。 つぎのあさはやく、「めは でたかな?」とみると、おや まあ、つちのなかから まめくらいの そらいろのいえが でてきました。 「うちが さいた!うちが さいた!」ゆうじは じょうろで ちいさいいえに みずを かけました。 「おおきくなあれ、おおきくなあれ」すると、そらいろのいえは、すこしずつ おおきくなっていきました。 「ぼくの うちだ!」と ひよこが やってきて どあをあけて はいりました。 そらいろのいえは、もっと おおきくなっていきました。 「わたしの うちがあるわ!」ねこが はいりました。 そらいろのいえは やすまず おおきくなっていきました。 ぶたも きました。「ゆうじくん ほんとうに いい うちだね!」

 おひさまのひかりをあびて みずをかけてもらって、またまた おおきくなりました。 こんどは、ゆうじが はいりました。 たろうと はなこ しげると ひろしと くみこも きました。 そらいろのいえは すこしもやすまないで、大きくなっておきます。 うさぎと りすと はと ぞうのおやこ もきました。

 とうとう おしろのように りっぱな いえができあがりました。まちじゅうの こども もりじゅうの どうぶつたちもやってきました。きつねも やってきて「うわぁ すごい!」と めをまるくしました。「そらいろのたねから うちが はえてきたんだよー」とみんながいうと きつねは おおごえで どなりだしました。 「ゆうじくん、ひこうきは かえすよ。だから このうちも かえして。このうちは ぼくのうちだからね。だまって はいらないでよー。みんな でていっておくれー」 きつねは おおいばりで なかへはいると、いえじゅうの かぎをかけました。 すると、そらいろのいえは きゅうにおおきくなりだしました。「おひさまに ぶつかる!」 ゆうじが さけんだとたん いえは おおきくゆれたかとおもうと くずれはじめました。 しばらくすると そらいろのいえは どこにもなく びっくりぎょうてんして めをまわした きつねが のびていました。

   10月14日「ぐりとぐら」の中川李枝子さんが天に召されました。 89歳、老衰とありました。生きることを心底全うされたように思いました。

   デビュー作の「いやいやえん」や連載の「ぐりとぐら」は仕事と育児に追われる日々の中で描かれました。中川さんの仕事は「みどり保育園」の保母さん、お子さんも、まだ2.3歳という手のかかる頃です。創作のエネルギーはどこから来たのか、という問いかけにこんな風に応えています。

「ねえ、どうしてできたのかしら(笑)。でもね、みどり保育園は一切残業をしない園だったの。はじめと終わりの時間はきちんと守る、園だよりもない、行事もない。とにかく無理はしない、っていうのが一番のモットー。何しろ職員が私と天谷先生の2人しかいないんだから。お昼寝の時間は子どもたちと一緒に寝ちゃってたしね。だから創作は子どもを寝かしつけた後の夜にやってたんでしょうね、きっと。あまり覚えてないんだけど。だいたい私は400字詰め原稿用紙7枚だから、仕事の依頼は「できそうだな」と思えるときだけ引き受けていたの。ただし、台所で書くとかそういうことは一切やらない。書くときはちゃんと自分の机で書く、ということはきっちり守っていたの。台所で空き時間にちょこちょこ書くとか、そういうのは主人も嫌がるし、それだと全部が中途半端になってしまうから。」

そして、働くお母さんについても、こう語られています。

「働いているお母さんは無理しちゃいけない。 昔、働きながら子育てをしていた知り合いの女性は、ありとあらゆる便利な家電製品にお給料をつぎ込んでいましたよ。 最新式の洗濯機とかね。毎日やるべきことはたくさんあるんだから、全部を完璧にやる必要なんてないのよ。 もしも働いていることに罪悪感を持っているお母さんがいるとしても、そんなの子どもに見せちゃだめよ。 むしろ『私は働いているのよ!』っていばらなきゃ(笑)。
家族の犠牲になんかなっちゃいけません。子どもは子ども、自分は自分。 赤の他人・・・じゃあもちろんないけど、子どもは親とは別の人間であり、それぞれが社会の一員として尊ばれるべき存在なんです。 その上で、お母さんたちには自分を一番大事にしてほしいの。 だから健康診断は欠かさず行ってくださいね。 お母さんが健康であること。これが子どもにとっても家族にとって一番幸せなことなんですから。
お母さんは世間で何が起きているかをしっかり見聞きして、選挙にも行かなくちゃだめ。 特に今のような時代の状況ならなおさら。」

   中川さんのエッセイに「子どもはみんな問題児」という作品があります。母として、保育士として、作家としての視点、様々な角度から子どもたちを見つめています。こちらもぜひ、お勧めします。この題名だけをきいただけで、ほっと安心した、というお母さんもいました。

焦らないで、だいじょうぶ。悩まないで だいじょうぶ。
こどもはこどもらしいのがいちばんよ。
子育ては「抱いて」「おろして」「ほっといて」〜「子どもはみんな問題児」

   宮崎駿さんは中川さんを敬愛していました。宮崎さんの依頼でつくられた詩です。

〜あるこう あるこう わたしはげんき あるくの だいすき どんどんいこう〜♪

「中川さんの絵本の素晴らしさは教訓めいていないところです。 ファンタジーの主人公は一般的に、冒険して帰ってくると賢くなっていたり成長していたりする。 でも中川さんの場合は賢くならないまま(笑)。 子どもが冒険して帰ってきて成長するって嘘ですよね。」宮崎駿 談

この「そらいろのたね」のわくわくどきどきを、そのまんまで、ぜひ感じてくださいね!

(赤鬼こと山ア祐美子)

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