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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2024年3月号)



『 たんぽぽ 』

甲斐信枝 作・絵
金の星社 刊


   日ごとに太陽がいっぱいの暖かな陽射しが届いています。春一番が吹いたというところもあります。あたりはもうすっかり春を迎える準備が整っているようです。ちょっと散歩に出ると、ついこの間まで、ふきのとうがふっくらしていた近くに銀白色のネコヤナギがふくふくとキラキラしていました。木の芽たちも今か今かと、黄緑色の頭をのぞかせています。そうそう、足元を見てみたら知らないうちに、あの黄色の小さな蕾が今にも咲きそうに微笑みかけてくれていました。

かれくさの なかで、じっと はるを まっている くさ。
たんぽぽだ。 たんぽぽの つぼみだ!

ことし はじめての たんぽぽが、そおっと ひらいた。
だんだん あたたかくなる。
たんぽぽは あんしんして せいを のばす。

たんぽぽも おひさまに あたりたくて、どんどん のびる。

あさ おひさまの ひかりで、たんぽぽたちは めを さます。
おひさまを みあげて くらす。
ゆうがた、たんぽぽが ねむる。
さむい ひは、いそいで ねむる。あたたかい ひは ゆっくり ねむる。

あめ。そっと はんぶんだけ ひらいて じっと おてんきに なるのを まっている。

みんな めを さましたのに ひとつだけ ねたまま。
どうしたのかな?
なんにちか たった。あの たんぽぽが おきあがっている。
みどりの ほっぺたが ふくらんでいる。

わたげだ!
まっしろの ぴかぴかの わたげだ!
いちにちじゅう かかって そろ そろそろと ひらいた。

おおきなかぜが きた!
わたげたちは はっと、ひとおもいに かぜにのる。
おもいおもいに とびちっていく わたげたち。
はらっぱじゅうが わたげになる。

なんびゃく なんぜんの こどもたちを、こころを こめて みおくった たんぽぽ。
しばらくすると、あたらしい しごとに とりかかる。

たんぽぽは ふゆを こえて、つぎの はるには、
もっと たくさんの はなを さかせる。


   「たんぽぽ」という書名の絵本は、植物の絵本の中でもダントツの多さと言ってもいいでしょう。私たち日本人にとって、一番馴染み深く身近な植物が「たんぽぽ」なのかもしれません。冬の厳しさから、一気に春の穏やかな空気を運んでくれるのも、みんなが好きになる理由でしょう。私自身も大好きな花の一つです。

   絵本のジャンル分けには、”ものがたり系”と”かがく系”という分け方をされるものがあります。絵本出版社の中でも代表的な存在が福音館書店ですが、幼稚園などに配布される月刊絵本に「こどものとも」があります。これは”ものがたり系”になります。今では、月齢に合わせた年長、年中、年少、生後半年ごろ〜2歳まで4段階を対象にした絵本があります。同様に月刊絵本「かがくのとも」は”かがかく系”です。対象も4歳前後から、5.6歳と小学生中学年からのものまで3段階が出版されています。作者の甲斐信枝さんはこの「かがくのとも」の作品を数多く出されています。 科学というと、知識を得る書物と思いがちですが、絵本の場合はそうではありません。絵本の中の科学は「知る」ことよりも「感じる」ことが、大切だという事を伝えてくれます。

   残念ながら昨年11月30日、93歳でなくなられてしまった甲斐さん。残された多くの作品は身近な草花への愛情にあふれています。金の星社出版では、この「たんぽぽ」は科学というジャンル分けはされてはいません。でも、甲斐さんの作品は植物としてのたんぽぽへの科学の視点をしっかり踏まえています。たんぽぽの一生を正確にとらえつつ、たんぽぽを母の愛になぞらえて、巣立ちの子どもを見守る姿まで届けてくれます。また、精巧に緻密に描かれた絵の素晴らしさにも目を奪われます。目を草花と同じ高さにしながら、虫メガネでじっと見つめる続ける姿が忘れられません。雨上がりのつゆだまの美しさに宇宙を見出した甲斐さん、たくさんの素敵な世界をありがとうございました。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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