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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2024年2月号)



『おにの子こづな』

木暮正夫 ぶん
斎藤博之 え


   毎年めぐってくるこの季節、2月は鬼月間です。1年で一番寒いのもこの時期ですが、このところの日差しは冬とは思えないほどの温かさを運んでくれることもあります。とはいえ、冷たい風が吹き、雪が舞い散るのも忘れてはいけません。

   元旦の夕刻に大地震に見舞われ、多くの命が奪われてしまった北陸、能登に思いを馳せています。多くの建物、多くの道路、全てが傷ついたままの様子に胸が痛みます。同時にこの厳しい寒さのなか、降りしきる雪の中を、懸命に乗り越えようとする人々の姿も、日々伝わってきます。全国からの手助けが届けられている様子も見受けられるようになりました。何とか、一日も早く日常の生活が戻るようにと願うばかりです。

 むかし、あるところに、じさまと むすめがくらしていた。
きゅうにそらが くらくなったと おもったら 「むすめを おれのよめに もらうぞ!」おにが むんずと むすめを かかえあげた。むすめは 山おくの おにの すみかに つれてこられた。しかたなし おにと くらすうちに おとこの こが うまれた。
おには にかにか よろこんだ。こどもは こづなと なづけられ そだっていった。
 じさまは むすめを あんじて なきくらしておったが あるひ、にぎりめしや わらじを たんとつくって、むすめを さがしに でかけた。じさまが のをこえ 山をこえていくと どこからか はたおりの おとが きこえて きた。 じさまが ながめると、おとこのこが あそんどる。
「ここの うちの こどもかい?」
よくみると おとこのこは ちんまい つのを はやしておる。
じさまは たまげた。ここは おにの すみかか。
「おら、こづな。おとうは でかけとるが、おっかあは はたを おっとる。」
「なんと、おらの むすめで ねえか」 むすめも たまげた。
「こんやは ゆっくり とまっていってくれ。」「とまったら、おにに くわれや せんか。」
こづなが むねをたたいた。「おらと おっかあで、くわれんように するから。」
おにが かえってきた。「ひとくさい とおもったら じさまでねえか。」
おには むらむらと くいたくなった。「おれと なわないくらべをして、じさまが かてば あきらめるが、まけたら とって くう。」
わしゃわしゃ がしゃがしゃ・・・。おにの なわないの はやいこと はやいこと。
こづなは おにの うしろにまわり、なわをちょんぎっては じさまの なわに つぎたした。じさまの なわのほうが わずかに ながい。おには くびを ひねった。
 「こんどは まめの くいくらべだ」そこで、こづなは おにの いりまめに こいしを まぜた。「こりゃ かたくて どうにもならん。」 しょうぶは これで おしまい。
 つぎのあさ こづなが おにの たからものの 五ひゃくりぐるまを ひきだしてきた。
「このくるまで 三人して にげるべ」
おには 千りぐるまで おいかけてきたが、かわをわたることが できん。
おには かわの ながれを ごくごく のみはじめた。
五ひゃくりぐるまは たちまち おにのほうへ すいよせられていく。
けれど こづなは へいきなもの。「おらに まかせろやい!」
こづなは おしりを ぱっと まくると、しりを ふりふり ぺんぺん たたいた。
その おもしろいこと。 おには こらえきれなくなって「ぶはっ、ぶははははは・・・・・・。」
のんだ かわのみずを ふきだした。その いきおきで じさまの さとへ まっしぐら。
うちのまわりに おにの きらいなしょうぶを うえて、三にん なかようくらしたと。

   年に一度の「鬼の絵本」の出番です。毎年何冊も、並べては、何にしようかと頭をひねります。今年は 東北地方につたわる民話にしました。この絵本は、文を書かれた木暮正夫さんによれば、岩手県に伝わる民話だそうです。調べてみると、宮城県、山形県、富山県、遠くは奄美大島にも似たお話があるそうです。節分の風習にある、イワシの頭に、ヒイラギの枝を刺して家の戸口に飾ることや、「福は内押しは外」の豆まきの由来もこの「鬼の子小綱」からと言われる地方もあるそうです。

   まるで図鑑のようだと思いがちですが、あの分厚い図鑑ではない、この絵本の形がより花々たちを身近に感じさせてくれます。実は一般的な図鑑よりももっと、教えてくれることがたくさんあるのです。もちろん、生物としての確かな知識に基づいた記述も、わかりやすく説明されていますが、歴史、文学、芸術、習慣、食べ方、遊び方、楽しみ方…初めて目にすることもたくさんあります。前田さんの生物に対する視点には、知識だけではなく、生き物すべてへの愛情の様なものが溢れていることが伝わってきます。一つ一つに向き合いながら描かれている果てしない時間と深い洞察の眼が、豊かさを増しています。

   鬼の子であるにもかかわらず、人食い鬼の父から逃れ、母とじさまを救い出す こづなの勇敢さと、知恵と、滑稽さにおそれいってしまいますね。息子の仕業に、思わず笑いこけてしまう人食い鬼の父は、息子に免じて諦めたのかもしれません。鬼の子でもあるのにもかかわらず、母としてこづなを 大切に育てていただろう娘の想いも こづなに届いていたのでしょう。日本には、こんな不思議な民話の世界が全国に散らばっています。そのお話の中には、必ず私たちが大事にせねばならないことが潜んでいます。

   旅に出たら、そんな民話の世界を覗いてみるのもいいですね。そんな春よ、早く来い!

(赤鬼こと山ア祐美子)

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