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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2024年1月号)



『ちび竜』

工藤 直子 文
あべ 弘士 絵

童心社

   あけましておめでとうございます。 昨年1年間のことを思うと、あまりにも辛いことも多く心痛む日々が続いていたように思います。「戦争」の文字が消えてほしいと願うばかりですが、私たちのできることは、心に留めて思いを馳せて、「平和」の文字を思い描きことを忘れないことではないでしょうか。私たちにも新しい年がやってくるように、戦地の人々にも新しい朝がやってきます。

   今年は辰年。「竜」はアジア諸国では、縁起の良い生き物とされています。今年こそは、世界中が豊かな子供たちの笑顔でみたされますように!

ちいさな つぶから うまれたよ ちいさな ちいさな ちび竜だよ。
「あなた だれ?ここは どこ? それから それから ぼくは だれ?」
「あんた ちび竜 おれたち ボウフラ。ここは みずたまり。みんなで たのしみに  まっていた。で、きょう うまれた!」
「で、これから ぼくは どうなるの?」
「あんた ここから とびだして、どんどん『でか竜』になる。どんどん『力』になる。  ♪よいさ こらさの よっこらせ  神通力を つかってな、あっちこっちに ともだち つくる。すがたけしたり、ヘンシンしたり、雨、風、雲をつくったり、いろいろクンレンしてごらん」
「じんつうりきか。ぼく しっかり クンレンするね。よい雨 ふらせる 竜になる!  ありがとう ボウフラ。では、水たまりから とびだすよ!」
ちび竜、ぷ〜ん と とんで、たんぽぽに とまった。ちび竜が わたげに もぐると  しろい はやしのなかに いるようだ。わたげに つかまって ようい・どん!  ああ、とんだときの きもち。なんと いったら いいだろう。
「あなた、風と なかよしの 竜になれるわよぉぉ。いつかまた 風をつくってね〜〜っ」
ぼくの まわりで 大地が ながれ 雲が はしる。
ぼくは まぶしい 竜に なり でんぐりがえりする。
こゆびの つめくらいだった ちび竜は てのひらほどの おおきさになり とびかた クンレンちゅう。
とんぼが とぶと なんて かっこいい!とんぼは ハネの 手入れのしかたや「ハネたいそう」も おしえてくれた。「よし!これで 免許皆伝。あんた せかいいち カッコよく とぶ 竜になる。まちがいなし。」「ありがとう、 とんぼせんせい」
ちび竜の なかを、たくさんの じかんが ながれ、であいが かさなる。
ちび竜、ぐんぐん でかくなり、すこしずつ「でか竜」になる。
あるひ、フナが「ウロコ通信」のやりかたを おしえてくれた。
「じぶんのウロコと ともだちになってごらん、水の つぶから つぶへ つたわる ひびきを かんじてごらん、これで、あなたは もう 水と きょうだいだよ。」フナは うれしそうに ヒレを ふった。
あるひ、もぐらは「土」について おしえてくれた。「土は においで あいずしてくれるよ。」ちび竜は あちこち もぐり、においの あいずを いっぱい おぼえた。もぐらは「これで もう あんたは 土の しんゆうだよ」まんぞくして うなずいた。
ちび竜、どんどん でかくなる。それから それから すぎの木と せいくらべ。にゅうどうぐものてっぺんで ホップ・ステップ・ジャンプ。海に ゆられて くじらと ドスコイ。
神通力も みについた。くろい 雲 つくり こしこし こすって カミナリ ならしたこともある。海、山、森の みんなが びっくり にっこり 空を みあげた。
そして いま ちび竜は――――ひかる あおい 地球を だいている。

みえないほどの チビチビから うちゅうを つつむ デカデカまで
ああ どんな すがたも ぼくである。 どんな しごとも ぼくが やる。
ぼくは どこにでも いる。      なににでも なる。
そして かならず きみの こころの なかにも   いる!
いつかまた・・・・ちいさな つぶのような 竜は うまれるか?

   2024年は辰年です。国内だけでもたくさんの竜の絵本がありますが、アジア各国、欧米諸国をはじめとして、ありとあらゆる国にある昔話や伝説の題材としても事欠かないのが龍です。竜によせる人の想いが計り知れないことを感じさせられます。

   その中で、今回お勧めするのは、あの「のはらうた」の工藤直子さん、あの「あらしのよるに」のあべ弘士さんというコンビの作品です。工藤さんの日本語の美しさとリズムのある文章にドンドン引き込まれます。懐かしさを誘う掛け声のような、歌のような…工藤さんらしさが溢れています。どんなふうに読もうかと、わくわくしてきます。あべさんのちび竜への愛すべき描き方にも心が踊ります。ボウフラに学ぶちび竜のかわいらしさから、青い地球を抱えるページを超えた縦型の竜になるまでの姿は圧巻です。

   粟粒のような小さきものが、多くの出会いによって育まれ、学び、自らの成長を遂げて、地球を抱えるまでになっていく力強さには涙を誘うほどの感動を覚えます。

   自然環境が破壊される危機のなかで、水、土、森、山、海、そして空を感じることの大切さ、命はそういう中で繋がっていくものだと工藤さんは伝えてくれます。小さき者たちは、多くの出会いによって大きな姿になっていく、工藤さんからの子どもたちへのエールの様です。さて、また、ちび竜は生まれてこられるでしょうか・・・この私たちの世界に・・・

(赤鬼こと山ア祐美子)

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