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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2022年7月号)



『わたしがこぶただったころ』

梅田俊作/佳子 作・絵

岩崎書店

   日ごとに蒸し暑くなってきました。夏本番までもう一息といったこの頃です。 太陽がじりじりと焼けつくような空に、真っ白な入道雲がもくもくと立ちのぼるのも、すぐそこです。 待ち遠しいのは夏休みですね。 ウイルス感染防止対策には油断はできませんが、みんなで少しずつ知恵を出し合って、楽しい行事も出来るようになってきました。 海、山、川、高原、遊園地、キャンプ場、そんな場所に、この夏こそは、きっと子どもたちの笑い声が響くようになることでしょう。 大人たちが、かつて過ごしてきたあの夏の日々のように。

わたし、どろんこあそびが だーいすき。わたしって どろんこの げいじゅつかだね。 だけど、ママは こういうの。 「また よごしたの。もう おでかけのふくしかないのよ。どうするつもり?」
それで、パパのシャツをきて、 「ほらあ、わたしに にあうでしょ。」「あらあら、パパがこどもになっちゃった」「だって、ぼく ほんとは、パパなんだもん」

わたし、たべることも だーいすき。ぱくぱく もぐもぐ たべてると、わくわく うきうき、こぶたになって おどっちゃう。きょうは こぶたのダンスパーティーよ。 「まあ、なんて おぎょうぎのわるいこと。すわって たべなさい。」

わたし、おでかけするのも だーいすき。だって わたし、ほんとは こいぬなんだもん。 おもしろいもの いっぱい みつけるぞ、わん!ぶちねこ モグラどん いしころ ガマガエルくん スズメのおうち トカゲさん クモさん アリさんたち タンポポ! 「はやく はやく なにしてるのよ」 ママが かおを しかめます。

デパートのなかは ジャングルでした。まいごのママが やってきて いいました。 「だから いったでしょ、キョロキョロしてると まいごになるって」

かえりみち にもつを いっぱい もちました。 「わたしは おすもうさんなので ゴンス」 ママが あははと わたしも うふふと わらいました。 「ねえ ママ わたし ほんとのほんとは くもさんなんだよ」 「へえ、ママも くもに なれるかな」 それで ママとわたしは くもさんになって、うちにつきました。

ところが おうちの なかでも とんでたら、ママが こわいかおで、 「もう ゆうがただから ちらかさないでって いったでしょ!」 「だって わたし・・・、わたしは  ほんとは・・・」 「すこしは ママのみにも なってちょうだい!」
わたしは ママのみに なりました。 わたしが ちらかしたのを、ママのわたしが かたつけます。 「あとかたづけなんて つまらない!」 だけど さぼっては いられません。 せんたくもの おふろのようい ばんごはんのしたく ああ いそがしい、いそがしい。 ママのわたしは こわいかおして こういいました。 「ちらかさないでって いったでしょう!わたしのみにもなってちょうだい!」
わたしは わたしに なりました。『かんがえる ひと』になって かんがえました。 「どろんこあそびをするときは・・・ふくをぬげば いいんだわ。ごはんのときは、えっと ダンスのきらいな こぶたになろう。それから、それから・・・」

おなかが なりました。ばんごはん まだかなあ。 「わ、ママ どうしたの?」 「ふふふ ママだって ほんのちょっとまえは、あなたとおなじ こどもだったんだから さあ、こんやは ごちそうよ!」

   「梅田俊作・佳子の絵本」シリーズの一冊です。 以前には「よーい どんけつ いっとうしょう」を紹介しました。 二人の作品の素晴らしさは、〜子どもに寄り添う〜このことに尽きるような気がします。 この絵本も「わたし」の目線であらゆることを見続けています。 その中に大人になってしまった私たちが自過ごしてきたことに気づかせてくれます。

   どろんこ遊びが大好きな主人公の「わたし」。 この”どろんこ遊び”にはあらゆる遊びが詰まっていると言われることがあります。 感覚力・集中力・想像力・応用力・忍耐力・人間関係・免疫力・病気に強い体つくり等々、そして何より楽しさが解放感に繋がる遊びです。 ほんとなら、現代の大人にこそ必要なことかもしれません。 そして、何にでもなってしまえる子どもたちの発想力は生きる原動力でもあります。 目線を子供たちと同じにするだけで見えてくることもあります。 残念ながら、大人たちには見えなくなってしまう、特別な目を子供たちは持っています。 この絵本は、そんな事に気づくママの瞬間があることを教えてくれます。 そして、それがママの心の解放にもつながっていくことが素敵な瞬間です。

   私たち大人は、子供たちから日々こうして生きる宝を預かっていることを、常に心に留めていたいと願うばかりです。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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