だんだん日差しの温かさが眩しく感じられる時間が多くなってきました。温暖化の脅威が叫ばれ、暖冬という言葉も聞かれましたが、今冬は雪の出番も多く、思いのほか寒さも厳しい日々でした。数年ぶりの豪雪というニュースも飛び込んできました。備えがあっても、不安が付きまとう地域も多かったと思います。こういう時こそ待ち遠しい春です。気持ちがうきうきしてしまう春ですが、別れの季節でもあります。そして、3月は悲しい別れをした方がたくさんおられました。その静かな流れを考えたいと思います。
ある朝、くまは ないていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです。
小さな箱を作って、ことりをそっといれました。ことりは、ちょっとひるねでもしてるみたいです。くまは、きのうの朝 ことりと話したことを思い出しました。
「ねえ、ことり。きょうも『きょうの朝』だね。きのうの朝も、おとといの朝も、『きょうの朝』って思ってたのに、ふしぎだね。でもみんな『きょうの朝』になるんだろうな。ぼくたち、いつも『きょうの朝』にいるんだ。ずっとずっと、いっしょにね」
すると、ことりは首をかしげていいました。「そうだよ、くま。ぼくはきのうの朝より、あしたの朝より、きょうの朝がいちばんすきさ」って。
でも、もうことりはいないのです。くまは、どこへいくにも、ことりをいれた箱をもってあるくようになりました。けれど、くまが箱をあけると、みんなこまった顔をして、だまってしまいます。それから、きまっていうのでした。
「くまくん、ことりはもうかえってこないんだ。つらいだろうけど、わすれなくちゃ」
くまは じぶんの家のとびらに、なかからかぎをかけました。くまはいすにすわったまま、すっかりつかれきって、うつらうつらするのでした。
ある日のことです。ひさしぶりに まどをあけてみると・・・
なんていいおてんきなんでしょう!風が、草のにおいをはこんできます。
くまは、あるきだしました。おや?みなれないやまねこが、ひるねをしています。おかしなかたちの箱が、草の上になげだされています。
「きみ・・・」くまのこえはかすれていました。「きみのもってる箱、みせてほしいんだ」
「くまくん、きみのもってるきれいな箱のなかをみせてくれたら、ぼくもみせてあげるよ」
くまは箱を開けました。やまねこは ことりをじっとみつめていました。
「きみは このことりと、ほんとうになかがよかったんだね。」
やまねこが箱をあけると、なかからでてきたのはバイオリンでした。
「きみとことりのために 一曲えんそうさせてくれよ」やまねこが バイオリンをひいています。くまは目をとじていました。すると、いろいろなことがおもいだされるのでした。
バイオリンのおんがくは、ゆっくりとなめらかに、つづいていきます。ことりとの日々を、くまはなにもかもぜんぶ、思いだしました。くまは 森のなかのひのあたるばしょにことりをうめました。「ぼく、もうめそめそしないよ。だって、ぼくとことりは ずっとずっとともだちなんだ」
やまねこは、空をみあげました。「町から町へと旅をして、バイオリンをきいてもらうのがぼくのしごとなんだ。きみもいっしょにくるかい?」「おいでよ、くまくん」
やまねこは、そういって タンバリンをとりだしました。手のあとがたくさんついて、茶色によごれた、ずいぶんふるいタンバリンでした。だれがたたいていたのでしょう。
「ぼく、れんしゅうするよ、おどりながら、タンバリンをたたけるようになりたいな」
それから、ふたりはいっしょに旅をつづけています。
「くまとやまねこ音楽団」は大人気。こんどはあなたの町にやってくるかもしれませんよ。
全国の絵本屋さん1000人に聞いた、「絵本屋さん大賞」で1位になった作品です。
酒井駒子さんのモノクロのやわらかな絵が印象的で、その後も酒井さんの絵本は多くの支持を受けています。キラキラした季節を迎えるはずのこの時期に、あえてこの絵本をお勧めしたのは、やはり、2011・3・11の東日本大震災のことを忘れないようにしたいと思いました。あれほどの多くの悲しみに向かい、受け止めてこられた日々があります。でもその悲しみは、たとえ一瞬の災害であっても、一人一人がそれぞれに別の形を持っています。この絵本は、そのひとつの大切な悲しみに寄り添うことを教えてくれました。
今も人々はウイルス感染の猛威に揺れ続けています。コミュニケーションも取りにくく、マスク越しに語るのみでは伝わらないこともたくさんありますが、それでも、お互いに寄り添う方法はあるはずです。
小鳥を失った熊は、山猫に出会うことで、また小鳥に出会えます。どんなに大事な存在だったのかを知ることで、山猫の悲しみにも熊は寄り添っていかれることでしょう。
春、桜の木の下で「くまとやまねこ音楽団」の音楽にであってみたいです。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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