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赤鬼からの手紙(2021年12月号)



『モミの木』

アンデルセン 原作
バーナデット 絵 
ささきたづこ 訳

西村書店

   締めくくりの時がきました。コロナウイルスによる生活の変化から二度目の冬を迎え、平穏な日々が得られぬまま2021年が閉じようとしています。ご家族が命を奪われた方にとっては、より厳しくて悔しくて悲しい、忘れがたい年になりました。とはいえ、医療従事者の方々の献身的な力によって助かった命も多くありました。繋がりたいのに繋がれない哀しさやもどかしさの中で、あらためて相手を思う気持ちも確かになったのではないでしょうか・・・様々な想いを込めて、この1年をふりかえってみましょう。

 森の中に、いっぽんの小さいモミの木がはえていました。
「はやく大きくなりたいな。大きくなれば、ずっととおくまでみわたせるだろう。えだには、ことりが巣をつくるだろう。風にふかれたら、ゆっくりとていねいにおじぎをするんだ」
子どもたちから「まあ、なんてかわいいモミの木かしら」といわれても、モミの木はちっともうれしくありません。なんどかの冬がすぎて、ノウサギがモミの木をとびこえることができなくなっても、まんぞくしません。
「はやく大きくなりたいな」そればかりかんがえていました。
 まいとし、秋には高くそびえているモミの木がなん本か切られ、えだをおとされ、馬にひかれてでていきました。いったい、どこへいくんだろう、モミの木は思いました。
 春になって、コウノトリにたずねると「ひろい海に、あたらしい船がいくつもうかんでいて、船のマストは、モミの木のにおいがしたよ」と、いいました。「ああ、ぼくも大きくなって、海をわたってみたいなあ」とモミの木はいいました。
すると、お日さまの光がいいました。「ここにいることを、よろこびなさい。」
モミの木には、どういうことかわかりませんでした。
 クリスマスのころには、わかくてかっこうのいいモミの木が、えだをつけたまま、切りたおされて運ばれていきます。「どこへいくんだろう」
スズメたちがいうには、「しってるよ、きれいなかざりをたくさんつけて、へやのまんなかにたっていたよ。ろうそくの光でかがやいていたよ。」
「それじゃあ、海よりまちのほうがいいなあ。きれいなかざりをつけてたっていたいな。」モミの木は、あこがれにえだをふるわせていいました。すると、風がいいました。
「ここにいることを、よろこびなさい。」でも、モミの木はちっともうれしくありません。
 1ねんのあいだいに大きくなったモミの木、つぎのクリスマスには、まっさきに切りたおされました。きがつくと、きれいなへやのまんなかにたっていました。きれいにかざられて、てっぺんには金色にひかる紙の星がかがやいています。モミの木は、もううれしくてたまりません。夜になって、モミの木のろうそくに火がつきました。モミの木はゆめをみているようでした。そのうち、子どもたちがきてかざりにしてあるプレゼントがうばわれ、ろうそくももえつきて、モミの木はすっかりはだかになってしまいました。それでも、またあしたもきれいにかざってもらえるんだとたのしみにしていました。
 ところが、つぎの日、モミの木はやねうらのうすぐらいすみっこになげこまれてしまいました。いったい、どういうことなんだろう。一人ぼっちになったモミの木はさびしくて森の木やノウサギのことを思い出していました。ある日、やねうらにやってきたネズミたちに、森やお日さまやことりのはなしをしてやりました。「それじゃ、とてもしあわせだったんだね」とネズミがいいました。モミの木はかんがえこんで、ほんとうにそうだと思いました。
 とうとうある日、やねうらをおそうじするひとがやってきて、モミの木はにわにほうりだされました。外はすっかりあたたかくなって、花がさきツバメもとんでいました。
「さあ、たのしくなるぞ」モミの木はえだをひろげました。ところがどうでしょう、えだはひからびて、はっぱはきいろくなって、てっぺんの金色の星だけがまえのようにかがやいていました。モミの木から金色の星だけをとって、こどもたちがモミの木をふみつけると、かれたえだはポキポキとおれてしまいました。「ああ、ぜんぶおわったことなんだ。たのしめるときにたのしんでおけばよかったなあ」
そして、モミの木は小さく切られて、たきぎとなりもえつきてしまいました。

   「モミの木」アンデルセンの原作です。みなさんはご存知でしたか? 様々なバージョンがあるのですが、今回はバーナデットの絵にしました。クリスマス時期のお話は、本当に沢山の絵本も読み物もあります。毎年どんなものにしようかと、一番悩んでしまうのもこの季節です。今年は久しぶりに出会った「モミの木」にしました。

   日本の家庭のクリスマスでは、あまり見かけない光景ですが、海外からのニュースで、大きなモミの木を抱えて歩く父親の姿が流れてくると、またこの季節がやってきたなと実感します。NYロックフェラーセンターのクリスマスツリー点灯がアドベント開始として有名ですが、日本の様々な施設でのクリスマスツリー点灯も当たり前のようになってきました。

   そもそも、クリスマスにモミの木を飾るのはなぜなんでしょう。いろんな説があるようですが、寒さの厳しい北欧では、真冬でも緑の葉を茂らせている常緑樹は「永遠の生命の象徴」だったり、ドイツなどではモミの木には小人が宿り、人間に力を与えてくれると信じられたり、そんなことがルーツだとも言われているそうです。雪の中でも枯れないモミの木は元気を与えてくれるような気がします。その姿に触れたいために切り倒されるモミの木たち。

   アンデルセンの描いたモミの木自身の想いは、お日さまや風の言葉に象徴されています。「ここにいることを、よろこびなさい。」 この言葉に出会った時、ある言葉を思い出しました。
「置かれた場所で咲きなさい」
カトリック修道女、渡辺和子さんの言葉です。2012年に同名の著書が出版になった時、話題になりました。
”時間の使い方は、そのままいのちの使い方です。自らが咲く努力を忘れてはなりません。雨の日、風の日、どうしても咲けないときは根を下へ下へとのばしましょう。次に咲く花がより大きく、美しいものになるように。”

   この2年間、ウイルスによる痛みを世界中がこらえています。でも、きっと人は確かな知恵と手を合わせて向かう心が育ち、乗り越えられると信じています。 共にいられなくても、遠く離れていても、心を寄せて互いに思う日でありますように。

〜地には平和、人には喜びを〜
”Joy to the World! Happy Merry Christmas to You!”

(赤鬼こと山ア祐美子)

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