学校法人
認定こども園 聖愛幼稚園

〒400-0071
山梨県甲府市羽黒町618(地図
TEL 055-253-7788
mail@seiai.net



赤鬼からの手紙(2021年11月号)



『カカ・ムラド』
― ナカムラのおじさん ―

ザビ・マハディ 作
ゴラム・レザ・ハビビ 絵
ペシャワール会 監訳
小宮山さく 協力


   山々の紅葉も真っ盛りな季節になりました。 急に冷え込んだ今年は、より美しい姿を見せてくれるかもしれません。 こんな風にまわりにある自然の豊かさや、水道をひねればすぐに水を飲むことが出来ることは、まるであたり前の様に思う日々の中で私たちは暮らしています。 でも、世界にはその当たり前がかなえられない人々がいます。 そういう人々の命と暮らしを守りぬいた一人の日本人のお話しです。

 いま目の前に広がっている、豊かな緑と子供たちの笑い声に包まれたこの光景からは想像もできないかもしれません―――――――
 カラカラに乾いた岩山・・麦も取れなくなった畑、何もない広い砂漠・・・度々起こる天災、そして、原因がわからず、なかなか治らない病気。これらが、村の全てでした。
ソラブは、娘のシャブナムに語りかけます。「ガンベリ砂漠に小鳥が迷い込むと、のどが渇いてみんな死んでしまうんだよ。おじいさんが話していたことがあるけど、今は違う。ある人がやってきて、乾いた砂漠を緑の大地に変えてくれたのさ。今でも信じられないような気持だよ。今目の前にある緑の大地は、村人たちがずっと夢にみていたものだったからね。」
 十数年ほど前のこと――――――
医師の中村哲先生が診療所で小さな女の子を診察しています。「上のふたりは謎の病気で死んでしまったのです。この子も同じように死んでしまうのかしら・・・」両親の目には涙が溢れています。ここ数日、中村先生はイライラして落ち着きません。「どうして毎日患者がどんどん増えていくんだろう?いったい、どこに問題があるんだろう?」
7月、村に暑い夏がやってきました。先生の悩みをよそに、患者はどんどん増え続けます。気温が高くなるにつれて、命を落とす子供の数はどんどん増えます。このまま放っておくと、大変なことになってしまう・・・・・・ある夏の日の朝。病気を治す手がかりを探すために先生は山に登ってみることにしました。山の上の村はとても涼しく、体が軽く感じられ、寒気がするほどでした。山頂には雪が積もり、太陽の光でとけた冷たい雪水は細い滝のように流れていきます。雪どけ水でできた川は村に流れていきます。先生がいろんな場所で水のサンプルを取って調べると、山上の水は清潔でも、村のふもとに近づくにつれて、水がどんどん汚くなっていることが分かったのです。清潔な飲むための水を確保するために、先生は水の豊富な大河・クナール川から、自分達で用水路を引くことを決意しました。もう、これ以上、子どもたちが命を落とすことがあってはならない、それは村の誰でもが望んでいたことでした。村人たちは、中村先生のことを「カカ・ムラド」ナカムラのおじさん呼んで、みんなが尊敬し、信頼しています。
 こうして、中村先生と村人たちのたたかいが始まりました。川や井戸の様子を調べたり、やっと設計図面を書き上げて、先生と村人たちは協力し合って、作業を進めました。専用の重機が届くまでは、ツルハシやシャベルだけで来る日も来る日も掘り進め、6年もの歳月をかけて、ついに用水路が村までつながりました。その後も、様々な問題が山積みでしたが、先生は決してあきらめることなく、地道な努力を続けました。そして、とうとう用水路に川から流れ込んだ新鮮な水が通り、村に向かって流れついたのでした。
 それから、長い月日が過ぎました。今はもう、村に乾ききった砂漠はありません。きらきらと輝く緑の大地が広がっています。豊かな水のおかげで、村人たちは生き生きと日々を過ごしています。
 カカ・ムラドはどこ?
いまはもう、カカ・ムラドはいません。ソブラムは娘に言いました。「カカ・ムラドは、わたしたちの貧しさや苦しみを、まるで自分のことのように感じてくれる人だったんだ。尊敬する気持ちを込めて、お前の弟にムラドという名前を付けたのさ。いいかい、シャブナム。これからも、わたしたちはきっと大丈夫さ。きっと、ムラドが、カカ・ムラドがみた夢の続きをかなえてくれるはずさ。」
中村さんは中学生の時に出会った盲目の牧師さんを師と仰いで、多くの学びを得ました。自ら考えるキリスト教徒の在り方を「『当たり前の人』として、今をまっとうに生きようとすることである」と著書に書いています。中村さんは生前「アフガニスタンでは緑豊かな大地が増え、皆が食べていければ争いごとはなくなるし、戦争なんてやる必要ないのです。」と語られていました。

   中村哲さんを知っていますか? 1989年よりアフガニスタン難民治療に携わりながら、飲料水・灌漑用井戸事業を進め実現させました。そして、記憶にも新しいことですが、2019年12月4日、支援してきたアフガニスタンにて凶弾に倒れ亡くなりました。このニュースが飛び込んだ時の衝撃を今でも覚えています。なぜ、こんな人の命が奪われなければならないのかと…本当に悔しい気持ちでいっぱいでした。その後中村さんの人生を振り返った特集番組などが様々に報道され、その人柄も含めて詳しく知ることになりました。

   この絵本は、中村さんの功績を広く伝えたいと、アフガニスタンで出版された2冊の絵本「カカ・ムラド〜ナカムラのおじさん」と「カカ・ムラドと魔法の小箱」に解説を加えてまとめられています。今回は「カカ・ムラド~ナカムラのおじさん」を紹介します。

   中村さんがライフワークとした医療支援や砂漠緑化の取り組みなどについて、子どもが分かりやすいように描かれています。絵本を制作したNGOの代表ザビ・マハディさんが中村さんと出会ったのは、日本に留学中だった2016年。農業などのインフラ整備に関する、中村さんの講演会でした。アフガニスタンが干ばつに見舞われ、食糧の生産が困難を極める中、中村さんが現地の人たちを支えようと懸命に活動しているのを知り、胸を打たれたと言います。

   その中村さんを讃え、敬意と感謝を示し、友人でもある証として、アフガニスタンの人々が壁に描いた肖像が、今年タリバンによって消されてしまいました。中村さんが今のアフガニスタンの状況を、どれだけ憂いておられるかと思うと悲しくてなりません。この絵本に描かれたように、第二、第三のムラドが出てきてほしいと願うばかりです。

(赤鬼こと山ア祐美子)

戻る



Copyright © 2021, SEIAI Yochien.
本ページと付随するページの内容の一部または全部について聖愛幼稚園の許諾を得ずに、
いかなる方法においても無断で複写、複製する事は禁じられています。
mail@seiai.net