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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2021年3月号)



『太陽をかこう』

ブルーノ・ムナーリ 著
須 賀 敦 子  訳

至 光 社

   「三寒四温」の言葉通りに、ぽかぽかの暖かい日が続いたと思うと、きゅっと冷たい北風が吹いたりしています。こんな日々を何度か過ごしながら、本当の春がやって来ます。もわっとした空気が漂うと、温かい陽射しが辺りを包み、お日様もなんだか笑っているようです。人の知恵は火星にまでたどり着く時代がやって来ました。宇宙の秘密がまた、少し解き明かされるかもしれません。でもそんななかでも、人間にとって一番のエネルギーの源は、やはり太陽です。私たちを包んでくれる光に感謝しながら、太陽を思い描いてみませんか?

風がやさしくふくと、雲はゆっくりとうごいて、空にすきまができる。
太陽がでてきて、あたたかくなる。
ちいさな このくろい点が地球、このうえに、みんながすんでいる。
わたしたちの地球から、太陽がみえないとき、それは、宇宙にぽつんとうかんだ地球の、むこうがわを太陽がてらしているときだ。
朝はやく、太陽が地平線にのぼってくると、いちめん、バラ色になる。
太陽がしずむとき、空はミカン色。
霧のなかの太陽は、しろっぽい。灰いろの空に、あながあいたみたいだ。
スモッグがひどいと、太陽はほとんどみえなくなる。
たまに、月が太陽にかぶさってしまうことがある。
宇宙飛行士がとんでいく、くらい宇宙では、太陽のほのおは、こんなにおおきくみえる。
太陽のほのおのなかには、黒点というしみがある。
それでは、芸術家の太陽はどんなか。
アルトゥーロ・トレド・ピサ、アンドレ・マッソン、ミロ、勅使河原蒼風、
アントニオ・フラスコ―ニ、デルコッサ、ロバート・サリバン、トム・ウォルセイ、
むかしの版画、夕日の写真、日本のはた、原始人がのこした太陽のしるし、
太陽はどうかけばいいのか。
テンペラとふで、パステル、ゆびでかく、クレヨン、フェルトペン、てんてんでかく、
太陽のかきかたはいくつあるか。
ボールペンでもよいか、はりがみはどうか。きいろとあかのパステルはどうだろうか。
おとなしそうな太陽も、つよそうな太陽もある。
3月のやさしい太陽。7月のあらあらしい太陽。
たいていのこどもは、山のむこうにしずむ太陽をかくけれど、
太陽はほかのばしょにもしずむよ。まちの太陽は、ビルや工場のうしろにしずむ。
木のむこうにもしずむ。くさのむこうに日がしずむ。ブラインドのむこうにしずむ太陽。
画家たちも、じつにいろいろな太陽をかいているけれど、ほんとうは、きみのすきなようにするのが、いい。
ミカンのわぎりだって、いいじゃないか。

   ブルーノ・ムナーリ!! 閉店間近の古本屋さんで出会った絵本です。思わず手が伸びました。原本よりも高値になっていたけれど、これは店主の思いが込められていると思い、手に入れました。「ポラン書房」という名前の付いた古本屋さんの棚には宮沢賢治作品をはじめ、厳選された本たちがところ狭しと並んでいました。「太陽をかこう」は、店の看板の下にあるガラス戸の棚に一冊だけ表紙を道路側に向けて飾られていました。見つけたことがなんだかうれしくて、レジに向かうと、老婦人が眼鏡の奥から「あっ」と小さく声を漏らして、こちらを見上げました。「ムナーリ…ね、、、」買い主を確認するようにじっくり見てから、電卓を打ち始めていました。婦人のこの絵本への思いが伝わりました。手に入れてよかった・・・。

   ムナーリの絵本の入り口は、わが子への思いからでした。第二次大戦後の混乱期に息子のために数冊の仕掛け絵本を作りました。アート作家としても様々な顔を持つ彼は、スイミーでお馴染みのレオ・レオニとも深い交流を持っていたそうです。その繋がりによるものなのかもしれませんが、レオニ絵本翻訳の谷川俊太郎さんが文章を描いた作品もあります。ムナーリは日本の伝統的な美意識にもひかれ、しばしば来日したようです。日本の代表的な作曲家、武満徹とも親交を深めていました。武満はムナーリから贈られたオブジェをモチーフにして、「ムナーリ・バイ・ムナーリ」を作曲しました。作品との出会いは多くの翼をもって広がっていきます。ここに紹介した一文は、ほんの少しです。翻訳された須賀敦子さんの言葉も巧みな表現でムナーリの"描く"と言うことを的確に伝えています。「太陽をかこう」をながめていると、勝手に頭の中でいろんな太陽が浮かんできます。さて、あなたも描いてみませんか?あなたの心の中にある太陽を・・・。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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