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赤鬼からの手紙(2020年2月号)



『おんみょうじ 鬼のおっぺけぽー』

作/夢枕獏
絵/大島妙子

講 談 社


   年ごとに暖冬といわれ続けています。確かに都会では、未だに初霜や初氷の声も聞いていないような気がします。1年中で一番厳しい寒さがやってくるはずの2月ですが、雪の少なさにスキー場や除雪作業の仕事に関わる場にとっては、別の厳しさが舞い込んでいるようです。季節の変動は、人間の暮らしを大きく左右し、困難なことも出てきます。でも、その度に人は季節に学び、多くの知恵を絞りながら手を携えて乗り越えていきます。

   昔々の人々にとって、様々な困難への救いの手はこんなこともあったようです。

ごとり ごっとん ごとり ごっとん 
牛車が すすんでゆくのは 羅城門。
まえから もやもや あやしいくもが ちかづいて くる
おっぺけぽー のっぺけぽー ひとはいないか とっぺけぽー
いたら たべちゃえ たっぺけぽー 
やってくるのは 鬼のむれ 百鬼夜行。
鬼といったって いろいろ いるんだな。
にほんあしで あるく いぬ 大入道
琵琶に てあしのはえたやつ ひとは おらぬか おっぺけぽー
いたら くっちゃえ くっぺけぽー
しゃべる ねこ  おしり まるだしの 鬼
こわいもの へんてこなもの おもしろいもの 
いるいる 鬼の おっぺけぽー
さいしょに きがついたのが 安倍晴明という
こどもの おんみょうじ だったんだな。
「お師匠さま、たいへんです。まえから こわいものが たくさん やって きますよ」
けれど お師匠さまの賀茂忠行は くうすか くうすか ぴーぽっぽ いねむりしている
「ぼくが なんとかしなくっちゃ」
きゅうきゅう むんむん むむんと 呪を となえて 
「みんな こえを だすなよ」
すごいぞ 晴明。
結解をはって 鬼から みんなを見えなくしてしまった。
おやおや におうぞ おっぺけぽー
くんくん ひとのにおいが するぞ
でも 鬼たちは みえないから きがつかないのさ。
もーん もももももーん
ここでうっかり うしが ないてしまったんだな。
「うまそうな うしじゃ たべてしまえ」
わらわら わらわら 鬼たちは うしにとびかかり みんな たべてしまったのさ。
「おや まだ にんげんの においが するぞ みつけて たべてしまえ」 
さあ たいへん どうしよう。賀茂忠行 ようやくきがついて、 ふところから だした たくさんの にんげんの かたちを したかみ。
これを「ふーっ」と ふいた。
鬼たちは かみでできた にんげんを たべはじめた。
「おお、くった くった ともかく たべたぞ さあさ かえるぞ」
かっぺけぽー
「すごいぞ、晴明 おまえが きがつかなかったら 鬼にくわれていたところじゃ」
「お師匠さま、こんどは かみの人形をにんげんにかえるじゅつを おしえてくださいね」

   「安倍晴明」の名は聞いたことがある方がたくさんいると思います。 フィギュアスケートの羽生結弦選手が舞い滑った「SEMEI」も記憶に新しいところです。 また、羽生君が教えを乞うたという狂言師の野村萬斎さんは、スクリーンの中で「安倍晴明」を演じています。 その舞いがとても美しく、幽玄な世界が描かれていたように思いました。 2月恒例の”鬼の絵本”は、平安絵巻のような世界をお届けします。

   陰陽師とは、主として平安時代に活躍した”魔術師”や科学者のような人たちです。 まじない、占い、病気の治療や、暦を作ったりするのも仕事でした。 長い陰陽師の歴史の中で、全ての時代を通じて一番有名であったのが平安時代の「安倍晴明」です。 この時代の天変地異や、あらゆる苦しみなどへの救いの手は、陰陽師に託されていたこともあったのでしょう。

   小説「陰陽師」シリーズや不思議な世界のお話を描かれている夢枕獏さんの初の絵本です。 ”おっぺけぽー”など、リズミカルな言葉が繰り返されて、独特のオノマトペの世界が怪しい不雰囲気を誘っています。 声に出してページをめくっていくと、見たこともないようなものたちが次から次に絵本の中から飛び出してきそうです。 あの凄腕の晴明にも子供の頃があったんだ・・・それだけでもわくわくします。 魔物たちに立ちむかう晴明は、子どもながらもドキッとさせられます。 大島妙子さんの絵が素晴らしく、晴明の表情を際立たせています。 お馴染みの百鬼夜行も、一つ一つ丁寧に描かれていて、ずっと眺めていたくなります。 登場するすべての名前を知りたくなりますね。 この時代、人は「鬼」に象徴されるあらゆる困難への救いの術がなく、神仏や陰陽師のような存在に求めていたのかもしれません。

   毎年のように豆まきをして「鬼」を追い払うのが節分ですが、この「鬼」は外から向かってくるものだけではなくて、私たち自身の中にもあるのかもしれません。
 〜福は〜〜うち〜〜〜鬼は〜〜そと〜〜
今年もはりきって、いきましょう!

(赤鬼こと山ア祐美子)

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