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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2019年10月号)



『 ちいさな魔女とくろい森 』

石井睦美 作
岡田千晶 絵

文溪堂

   空気が澄み渡り、あたりの山々が色とりどりに姿を変える季節がやってきました。 細長い日本は、北の方から順々に移り変わっていきます。 あなたのまわりの紅葉は、もう始まっているでしょうか・・・。 その美しさも、緑豊かなあるがままの森の姿があってこそ、生まれてくるものですね。 それなのに、どうも北の国が黒くどんよりしているらしいのです。 森の様子がおかしい・・・森が病気?!いったいどうしたのでしょうか・・・ 魔女のあとについていってみましょう・・・

 ある満月の夜のこと、おかあさん魔女とその娘のちいさな魔女は、一羽のカラスと共に北の国をめざしてとんでいった。月にてらされて見えてきたのは、まっくろな森。
「あそこにいくの?」ちいさな魔女がたずねると
「そうよ、森はいま、びょうきなの。おかあさんがいくのをまっているの」とおかあさん魔女はこたえた。
ウサギにリス、野ネズミ、イタチにキツネ、テントウムシやバッタまでがあつまっていた。
「まっていたよ。わたしも、わたしをしんぱいするみんなも。」と森はいった。
おかあさん魔女が、ずんずん森のおくへ行くと、赤いやねのちいさな家が見えてきた。
「かあさんが、あなたくらいのとき、かあさんのかあさんと、ここにすんだの。みんなおぼえているわ。これから、森のくすりをつくるのよ。」おおきな魔女が、おなべの上に手をかざすと、木の実みたいなちいさなものが、パラパラとこぼれおちてきた。
「おおきなおなべはおみずがいっぱい。メデス、メデス、メデスをごつぶ。オモイ、オモイ、オモイをたんと。ブクトゥウ、ブクトゥウ、ねがいはかなう」じゅもんをとなえながら、なべをかきまぜつづけた。くすりは、まだまだできない、ちいさな魔女はゆめの中で、おおきな魔女とくすりをつくった。朝がきて、目がさめると、くすりがちゃんとできていた。
おおきな魔女は、なべのくすりを木のねもとにかけてあるいた。ちいさな魔女もあとをついていった。「森は、元気になる?」「ええ、なるわよ。」
おなじことがなんにちも、なんにちもくりかえされて、ちいさな魔女は、いまではすっかりじゅもんをおぼえてしまった。

 そんなあるひ、こまったことがおきた。南の国の森が、びょうきになったのだ。
「こまったわ。まだこの森もなおってないのに」
ちいさな魔女はいっしょうけんめいかんがえて、こういった。
「かあさんは、南の森にいって。わたしがここにのこる。ここで、この森をまもりたいの」

 おおきな魔女のとっくんがはじまった。
「森のいのちをねがいなさい。木のいっぽん、はっぱいちまいいちまい、森のなかまたちにも、おもいをはせて。なべを信じることもわすれちゃだめよ」
ちいさな魔女のてのひらにはたくさんのまめができて、そのまめがつぶれて赤い血がにじんで、、、それでもちいさな魔女はとっくんをやめなかった。そしてついに、木の実みたいなものが、ちいさな魔女のてのひらからパラパラとこぼれおちてきた。ちいさな魔女はいった。
「私はこの森をまもる魔女」

   この絵本を読んで、最初に頭に浮かんだのは、スウェーデンの15歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんでした。 今まさにメディアに取り上げられ続けている彼女は、昨夏、記録的な熱波と山火事に見舞われたスウェーデンで、たたひとりでストックホルムの国会議事堂の前に座り込んだのです。 「Skolstrejk for klimatet(気候のためのスクールストライキ)」のプラカードを掲げながら、学校を休み、2週間毎日座り続けました。 その後は金曜日だけ、学校へ行かずに坐りこみを続けました。ツイッターやインスタグラムで発信し始めると、たちまち多くの取材を受けて大きなニュースになりました。 「未来のための金曜日」と名付けられた彼女の活動は、今や125か国、100万人以上の若者を巻き込んで、世界を動かそうとしています。 今後の彼女から眼が離せません。

   絵本のちいさな魔女は、「わたしはこの森をまもる魔女」と最後に言い放ちます。 おかあさん魔女のあとをついていっていたちいさな魔女は、まだあどけない可愛らしい表情をしていました。 でもおかあさんからの特訓を受けていく姿の中に見える表情は、徐々に凛々しく、責任を持つ凛とした顔になっていきます。 おおきな魔女の顔にも、だんだん似てきました。 描かれた細やかな成長ぶりに巧みな画力の技法が込められて、絵の中にぐんぐん引き付けられます。 呪文を唱えるだけでは、薬は出来ないと言われていた小さい魔女は、必死に闘い続けます。 そしてやっと、やりぬいた時は思わず涙が出そうになりました。

   世界を動かすのは、おおきな魔女の教えの様に、想いを馳せる想像力と自分を信じる、他者を信じる力なのかもしれません。 スウェーデンの少女は、まるで小さい魔女の成長していく姿に重なって見えてきます。 メディアで見かけるたびに、信念を貫こうとする確かな表情になってきています。

   魔法でなくとも、私たちにも救うための想像力や知恵があるはずです。 自然環境を守ることは、若者の未来を守ることですから。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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