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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2019年8月号)



『いのちの木』

ブリッタ・テッケントラップ 著・イラスト
森山 京 翻訳


ポプラ社


   夏の入道雲はもくもくと立ち上がり、力強い気持ちにさせてくれます。 夏の花、向日葵もぐんぐん伸びて成長する喜びを伝えてくれます。 夏はそんな命の輝きを感じさせる季節ですね。 でも、日本では一年に一度亡くなった方への想いを新たにする風習があります。 「お盆」も同じこの夏の時期です。 最近亡くなった方だけでなく、ずっと前に亡くなった方をも含めて思いを寄せる時間を持ちます。 それは、自分の命が自分だけのではなくて繋がった命なんだということや、周りに支えられた命なんだということも伝えてくれる機会になります。 動物たちの間にも、命の繋がりを感じるヒントがあるようです・・・

   もりのキツネは、なかまのどうぶつたちと しあわせにくらしてきましたが、だんだん としをとり、からだもよわってきました。あるひ、キツネはおきにいりのばしょで、まぶたをとじました。キツネのめは、にどと ひらきませんでした。きのうえから みていたフクロウは、とびおりると キツネによりそって すわりました。フクロウのむねは、かなしみで いっぱいでした。ながいあいだの ともだちだったフクロウは、キツネとのわかれがちかいことも、きづいていました。
   一ぴき、また一ぴきと、どうぶつたちが あつまってきました。リス、イタチ、クマ、シカ、トリたち。ウサギやネズミもやってきて、キツネのまわりにすわりました。だれもが だいすきだったキツネ。そのキツネがいなくなってしまうなんて・・・。
   ようやく フクロウがほほえみながら いいました。 「キツネとぼくが わかかったころのはなしだがね。あきになると どっちがたくさん おちばをひろうかって、きょうそうをしたもんだ」みんなも ほほえみを かえしました。 それぞれのむねに、キツネとのおもいでが うかんできたのです。 ネズミ、クマ、ウサギ、リス、つぎつぎにおもいだしました。 キツネは、みんなに いくつものおもいでを のこしてくれました。 みんなは、ほほえみを うかべながら おもいかえしていたのです。 そのころ、キツネがよこたわっていた ゆきのしたから、オレンジのめが ぽっちり でてきました。キツネのおもいでが かたられるたびに オレンジのめはふくらみ のびていったのです。
   ときがたつにつれて キツネとすごした ひびのことが あとからあとから よみがえってきました。 オレンジの木は さらにのびて、うつくしいすがたになり もりいちばんの たかい木に なりました。 キツネの木は、もりのみんなが すめるくらいに おおきくりっぱになりました。 木は、キツネのともだちすべての いのちのちから いきるささえとなったのです。
   キツネは、みんなの こころのなかに、いまも いきつづけています。

   夏は子どもたちにとって、一番生き生きと過ごす季節ですね。 太陽をいっぱいに浴びて、一気に背が伸びる子供もいます。 そんな生命力あふれる8月は、同時に「命」を考える時でもあります。 広島、長崎の原爆投下、終戦記念日と忘れてはならない日が続きます。 また、災害などで多くの命も奪われることもあります。 そんな中で子どもたちと「命」のことを考えることは、大切なことですが難しさも伴います。 今夏の「命」を考える絵本は、戦争や災害などには直接触れたものではありませんが、絵本にとっては身近な動物たちの姿を通して「命」を伝えたいと思います。

   キツネは年を取って亡くなってしまいます。 このキツネが動物のなかまたちにとって、どんな存在だったのか、どれだけ特別な存在だったのか、仲間たちそれぞれの立場で語られていきます。 キツネがいなくなった悲しみをみんなで語り合うことで共有していきます。 そして、木という形でキツネはみんなの中に再生されていきます。 年を取って体が弱くなり亡くなってしまう姿は、子どもたちの中でも家族の一員として経験をもつ人もあるでしょう。 最近はペットの死を思い、自分と同じお墓に入れたいという人もあるそうです。 どんな形でも、「死」を考えることは「命」を考えることに繋がります。 シンプルな絵と落ちついた色使いの表現の中に、それぞれの動物たちの目の奥にある温かい気持ちが伝わってきます。 一人ひとり悲しみには固有な形がありますが、乗り越えるにはどんなことが必要なのか、この絵本は教えてくれているように思います。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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