学校法人
認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2019年7月号)



『 だってだってのおばあさん 』

さのようこ さく・え

フレーベル館

   空が高くなって、ひまわりも太陽に向かってぐんぐん伸びてきました。 いよいよ夏本番の装いですね。 山や海、川や高原、たくさんの自然の営みも一層生き生きしてきます。 夏を迎える準備はできていますか?今年の夏休みにはどんなことをしようかなあって、家族と計画を立てるのも楽しみです。 久しぶりにおじいちゃん、おばあちゃんに会いに行く人もいるかもしれませんね。 きっと、首を長くして待っていることでしょう。 おみやげ話をたくさんためておくといいですね。 あらあら、このおばあちゃんは、”だって、だって・・・”ばかり言ってますよ、いったいどうしたんでしょうねえ・・・

あるところに、ちいさな うちがありました。このいえには おばあさんと いっぴきの ねこがすんでいました。おばあさんは98さい、ねこは げんきな おとこのねこでした。ねこは まいにち ぼうしをかぶって つりざおをもって さかなつりにいきました。
「おばあちゃんも さかなつりに おいでよ」と さそいました。おばあさんは
「だって わたしは 98だもの、98のおばあさんが さかなつりをしたら にあわないわ」と ことわりました。そして、おばあさんは いすにすわって、はたけで とれた まめの かわをむいたり、おひるねをしたりしました。
「だって わたしは 98だもの」

さて、きょうは おばあさんの99さいのおたんじょうびです。おばあさんは、あさからケーキをつくりました。ねこは おばあちゃんの つくる ケーキが だいすきでした。
「おばあちゃん ケーキを つくるの じょうずだね」
「だって わたしは おばあちゃんだもの、おばあちゃんは ケーキを つくるのが じょうずなものよ。」
おばあさんは ねこに いいました。「ろうそくを かってきておくれ。99ほんだよ。」
ねこは いそいで いそいで おおいそぎで ろうそくを かいに いきました。
「フン フン ケーキは だいせいこう。これは だいせいこうの におい」
そのとき ねこが おおきなこえで なきながら かえってきました。やぶれた ふくろと ろうそくを 5ほん もっていました。
「5ほんだって ないより ましさ。さあ ろうそくを ケーキに たてておくれ。」
おばあさんは ローソクに ひを つけました。「おばあちゃん、かぞえて」
「1さい 2さい 3さい 4さい 5さい。5さいのたんじょうび おめでとう」
おばあさんは じぶんで じぶんに おいわいを いいました。
「おたんじょうび おめでとう!おばあちゃん、ほんとに 5さい?」
「そうよ、だって ちゃんと ろうそくが 5ほん あるもの。ことし わたし 5さいに なったのよ」と おばあさんは いいました。「ぼくと おんなじ!」
つぎのあさ、ねこは さかなつりに でかけようとしました。「おばあちゃんも おいでよ」
おばあさんは 「だって わたしは 5さいだもの・・・、あら そうね!5さいだから、さかなつりに いくわ」といって おばあさんは げんきよく ねこと いっしょに でかけました。のはらには はなが たくさん さいていました。おばあさんは においを くんくん かぎながら、「5さいって なんだか ちょうちょみたい」・・・
さてさて、5さいになった おばあさんは いったい・・・

   「100万回生きたねこ」でお馴染みの佐野洋子さんですが、この絵本は初期の3作目の作品です。 絵本作家としての作品数は多い方ではないかもしれません。 挿絵、イラスト、デザイン、小説、児童文学、翻訳、脚本、エッセイ等、とても多彩な人でした。 特にエッセイは彼女の人となりが表されるような楽しいものがたくさんあり、佐野さんが亡くなられた今でも、老若男女問わず人気があります。 そんな多くの表現の中でも、彼女独自の言葉と特有な色遣いや線で描かれた絵本の一冊一冊には、人間、動物、自然、社会現象等、あらゆるものへの深い愛情と洞察があるように思えます。

   今回の「だってだってのおばあさん」は1975年、今から44年前の作品ですが、人生100歳時代と呼ばれる現代を予測したかのような思いがしてきます。 とはいえ、佐野さんが描いた頃に出会った世界中のおばあさんはこの予想とは違っていたのかもしれません。 あとがきにはこんなことが書かれています。

”〜私にとっては、あのおばあさんは額に入った絵と同じようになってしまいました。〜たくさんのおばあさんにこの絵本を贈りたいのです。〜だって、おばあさんは一番たくさんの子どもの心をもっているんですもの。”

   医療体制も環境も整い、確かに人間の寿命は延びています。 特に日本の女性の平均寿命は世界一とも言われます。 だから、元気なおばあさんがいっぱい・・・それでも、年齢を抱えながら自分を知るということは、なかなかできにくいものです。 絵本のおばあさんの〜だって〜の言葉は、良くも悪くも様々な固定観念や理由付けを自分に課してしまう言葉の様にも聞こえます。 でもここから、自分を解放して新たな自分に出会うという人生の醍醐味を絵本の中で伝えてくれる佐野さんの手法はお見事!

   98歳になって、5歳の自分に出会えるなんて、なんて素敵なことでしょう! でも、絵本を読んだ子どもたちは、猫と同じように、やっぱり、ケーキが心配ですって・・・ 子どもからお年寄りまで楽しむことが出来る魔法の絵本です。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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