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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2019年3月号)



『ばあばはだいじょうぶ』

楠 章子 著
いしいつとむ 絵         

童心社


   3月の声を聞くと、気分も軽くなってくるような気がします。春の訪れを間近に感じられる出会いもたくさんありますね。木の芽のふくらみや、花のつぼみ、足元の緑も少しずつ伸びてきています。お日様の温かさも一気に増してきますが、寒さが舞い戻るのもこの季節の特徴です。特にお年寄りと一緒に暮らしている方は気になりますね、日々の生活の中でも油断は禁物です。そんな風に、注意深くみんなで見守りながら過ごしている家族のお話です。

つばさは、がっこうからかえると、まず、ばあばのへやにいく。ばあばに いろんなことをしゃべると、ばあばは「うんうん」きいてくれる。そして、いってくれるんだ。
「つばさは、だいじょうぶだよ」
ママにしかられたときも、なきやむまで、ばあばは、「だいじょうぶだよ」って、あたまをなでてくれる。ばあばのこと、だいすき。
 はじまりは、犬のココのおやつ。「ばあばったら、一日になんかいも、あげちゃうのよ」
ママはくびをかしげていた。
「つばさ、きょうは学校、おやすみなの?」
「だって、日よう日だもん」「ああ、そうか。日よう日か」と、はなした すぐあとに、
ばあばばが またきいてきた。おかしいなと おもいながら、ぼくは こたえた。
「だって、日よう日だもん」「ああ、そうか。日よう日か」
秋になると、まいとし、ばあばは あみものをはじめる。ことしは、なかなかすすまない。
あんでは ほどく。 あんでは ほどく。
「いろいろ、わかんなくなっちゃって・・・」ばあばは、ためいきをつく。
ぼく、どうして わからなくなっちゃうのか、しってる。
ばあばは「わすれてしまう」びょうきなんだって。ママとパパが、おしえてくれた。
春。パパもぼくも、だいじにすこしずつたべていたイチゴジャムを、ばあばが ぜんぶ たべた。「ひどいよ!」
夏。となりのいえのおじさんが、どなりこんできた。「ちょっと、きてくれ!」おじさんのにわの花がおられ、土がほりかえされている。ばあばのへやには、花と土がちらばっていた。
「花、すきだもんねえ」ママは やさしく、ぬれたタオルで、ばあばのかおをふいてあげる。
ぼくは、だまって みていた。
秋。「おちゃ、いれるね」ゆのみをみて、ぼくは ぎょっとした。きゅうすにはいっているのは、おちゃのはじゃなくて、かれはだ。
「さあ、どうぞ」かれはのおちゃを、ばあばがすすめてくれる。
「いらない!」ぼくは、へやから にげだした。
「なるべく、ばあばと いっしょに いてね」ママに そう いわれるけど・・・。
秋がおわるころ。ぼくは ばあばのへやを のぞかなくなった。
にわの水たまりに、こおりが はった日。ばあばが、いなくなった。
ばあばが、いえに いない よる。ぼくは、いつまでも あしが つめたくて ねむれなかった。朝日がのぼると、ばあばは、となりのいえの おじさんとかえってきた。
げんかんに たっている、はだしのばあば。とても たよりなく みえる。
いえが わからなくなって、ずっと くらいみちを あるきまわっていたの?
「ごめんね」ぼくは つめたいばあばのあしに、くつしたをはかせてあげた。
すると ばあばは、「だいじょうぶだよ」そういって ぼくのあたまを なでてくれた。

   この絵本の著者 楠章子さんの実体験から描かれた作品です。楠さんのお母さんが若年性認知症を発症して15年以上が過ぎようとしていること、その介護を通しての思いであることが巻末に記されています。最初は別人のようになっていく母を見て見ぬふりをした…絵本の主人公つばさが、ばあばにやさしくできなくなっていくようすは、そのままのわたしであり、そしてそれが変わっていく様子も自分に重ねて書いたとのことです。

〜「えらいわねえ」という言葉と同じくらい、「大変ねえ」といわれる。介護をするというのはたしかに大変だが、学ぶことも多く、心が満たされることも多い。母は病気のせいでだんだん表情がうしなわれつつあるが、わたしがしんどい顔をしていると、にこっとわらいかけてくれることがある。〜守っているつもりで、じつはいまも守られているのかもしれない。うん、だいじょうぶ。きょうもわらっていこう。〜

   楠さんのこの言葉は同じ立場におられる方には、特に印象深く届くのではないでしょうか。国民の半分が高齢者になるという現実も、あながちまやかしではなくなってきた今日、共に考えていかねばならないことだと実感できる作品です。 この作品は映画化され、4月に公開とのことですが、つばさを演じた”寺田心”君は大きな賞をいただいたそうです。絵本とはまた違うつばさ君とばあばに出会えることでしょう。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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