この冬は、西高東低の気圧配置が続いています。
太平洋側はカラカラ陽気で雨が欲しいくらいですが、日本海側や北海道は強い寒気と共に大雪に見舞われています。
細長い日本の自然現象は、こんなにも違うものなのだと実感します。
雪による大きな被害が起こらないようにと願うばかりですが、この寒さはまだまだ続きそうです。
待ち遠しい春に思いを寄せながら、「笑い」で寒さを吹き飛ばすのはいかがでしょう。
おやおや、こんなところに「おにのめん」が・・・
お春は親もとをはなれて、河内屋という荒物問屋に「奉公」にでてはたらいておりました。
しごとはそうじ、せんたく、子守りなど・・・きょうも赤ん坊をおぶって、いつものように道具屋のまえにやってきました。
「おじょうちゃん。まいにちこのおめんをじーっとみとるけど、なんかあるのんか」
「このおめんの顔、あたいのおかんに、そっくりなんや。おかんをおもいだすんや。」
「それやったら、こうていったらええやないかあ」
「お金あらへん」
道具屋のおっちゃん、しばらくかんがえこんでおりましたが・・・
「・・・ほんなら、このおめん、おじょうちゃんに、やるさかい、もっていき」
「おっちゃん、ほんまか・・・おおきに」
お春はじぶんのへやのたんすのひきだしにしまいました。
暮れもおしせまったある日のこと、若だんなの徳兵衛はたんすのなかをみつめるお春をみつけました。お春がいなくなるのをまって、ひきだしをあけてみました。
「ありゃりゃ、このおめんは―――、お春のおかんにそっくりやんか。お春のやつ、さびしなったら、このおめんにあいにきたっとんや。かわいやっちゃなあ。」
ところが、なにをおもったか・・・お春のおめんをとりだすと、かわりにおにのめんをさしいれました。徳兵衛、年がいもないいたずらをかんがえたもんで・・・。
ひとしごとをおえて、たんすのひきだしをあけたお春はびっくりぎょうてん。
「おかんの顔がおにの顔になっとる!!」
お春はおかんにたいへんなことがおこったとおもいこみ、おにもめんを手にとると、とるものもとりあえず、お店をとびだしてわが家にむかいました。
「おーい、お春はどこや」
ご主人の善右衛門さん、番頭の喜助も女中のお松も、お竹も、丁稚の梅吉もしらないようで、
「おかしいなあ、徳兵衛、おまえしらへんか」
「あっ!」おめんのことをおもいだし、「しりまへんが、ただ、ちょっと・・・」
徳兵衛がじぶんのやったことを善右衛門にはなすと、
「なんやてえ!あほなことしよって」「・・・こりゃあ、えらいこっちゃ」
「お春をさがせ!」店のものをよびあつめ、さがしますがみつかりません。
徳兵衛は、まっさお。
お春の家は、河内屋のお店からおとなの足でも半日かかる田舎、道をいそぐお春。
・・・さてさて、お春はどうなったでしょうねえ。
2月は、いつものように鬼のお話ですが、今回はちょっと変わったお話です。
「おにのめん」は落語で語られるお話です。
川端誠さんがライフワークとして掲げている落語絵本シリーズの一冊、ほかにもお馴染みの「じゅげむ」「まんじゅうこわい」「めぐろのさんま」などをはじめ、すでに15の落語が絵本として出版されています。
子供の頃にラジオで落語を聞いてから、筋金入りの落語好きという川端さんは、落語と絵本との関わりをこんな風に話されています。
「うまい噺家にかかると、何度おなじ噺を聞いてもおもしろい。
ストーリーもオチもよく知っていても、聞けば聞くほど、おもしろい。
ちょうど、子どもが同じ絵本を何度でもくりかえし読むのと同じなのかな。
絵本と落語とは、けっこう近く、落語を聞いていると、これは絵本になりそうだというものが、いくらでもありますよ。」
このシリーズを一冊でも手に取ると、一人で面と向かっても、読み聞かせの会でも、また、お芝居の様に掛け合いしながら読み合わせても楽しむことが出来ます。
いろんな読み方をしてみたくなるのも大きな魅力です。
そしていつの間にか、どんどん次のお話を手に取りたくなってきます。
登場人物の表情や仕草だけでなく、絵の中にある背景や小道具たちを、一つ一つ見ていくと、まるで映画でも見ているように話の筋がより際立って聞こえてきてワクワクしてきます。
川端さんは「落語絵本は、江戸の暮らしを伝える図鑑でもある。
時代のなかで消えてしまう言葉や風俗・文化があれば、時代を越えても変わらない人情や生き方などもある・・・。
おおいに笑って絵本をたのしみながらも、なにかを感じとったり、知らないうちに記憶に刻まれていくことがあるはず。」とも話されます。
ページをめくっていくと、確かな時代考証に裏付けされたきめ細やかな表現がされていることに気づきます。
今の私たちの暮らしのもとには、こんな日本の歴史があるんだと思うこともしばしばあります。
落語なんて聞いたこともないし・・・ちょっと難しいと思う方がいるかもしれません、いえいえ、必ず見合う内容の落語がありますので、手に取ってみてください。
きっと、この寒さを吹き飛ばしてくれるはず・・・「笑う門には福来る」
(赤鬼こと山ア祐美子)
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