秋も深まり、吹く風もほほに冷たく感じるようになってきました。今年は台風がたくさんやって来ました。その傷跡が残る場所もありますが、空を見上げると、いつも通りに一年中で一番美しい季節が私たちの目や耳を楽しませてくれています。お弁当をもって、みんなで出かけるのもいいですね、ワイワイガヤガヤ楽しい一日が待っています。
あらっ、ちょっと待って・・・みんなの笑い声がこだましているはずなのに、どこかで誰かと誰かが、ケンカしているような・・・いったいどうしたのでしょうか・・・
きょうはいいてんき、ほらあなからでてきたクマくんが、もりをあるいていると、ビーバーが、きのおうちをつくっています。「いいなあ。ぼくも おおきな うちを つくろう!」
クマくんは、きをきろうとしましたが、うまくいきません。めのまえに、きれいにきったきがありました。「いいのが あった。これをつかおう。」
クマくんが、おうちをつくっていると、ビーバーがきて「クマくん、そのきは ぼくのだよ、かえして!」
クマくんはびっくりしたけれど、「しらないよ。すててあったんだもん。」といってしまいました。
ビーバーがこまっていると、もりのみんながやってきました。
「そのきは、ビーバーくんのだよ。ビーバーくんがきっているのをみたよ!」とカラスくんがさけびます。
「かえてしてあげて。」とうさぎちゃんはやさしくいいます。それでも、クマくんは しらんぷり。みんなは おこってかえってしまいました。
「ふーんだ!ビーバーくんのことなんてしらないよ。」と、おうちをつくりますが、うまくつくれません。クマくんは、なきだしてしまいました。
「わたしは もりのリスおばあちゃん。クマくん、どうしたんじゃ?」
「おうちがつくれない、みんなとけんかしちゃった。どうしたらいいか、わからないよー!」
「よーし、なかなおりのうたを おしえてあげよう。」
♪あのこの きもちを かんがえよう ♪ゆうきを だして はなそうよ
♪わるいと おもえば ごめんなさい ♪そしたら ふたりは なかなおり
リスおばあちゃんはクマくんのとなりにすわって、しずかにたずねました。
「クマくん、ビーバーくんのきもちをかんがえてごらん。」
「ぼくはおうちがつくりたいんだ。ビーバーくんのきもちなんて、しらないよ!」
クマくんのめは、なみだでいっぱいです。
「ビーバーくんも、きがないと おうちが つくれないよね。」リスおばあちゃんがいいました。クマくんは、ビーバーくんのきもちを かんがえました。
きがなくて、こまっているビーバーくんのすがたが おもいうかびました。
さて、クマくんはどうしたでしょうか・・・。
きずな絵本シリーズ第1弾として出版され、今、話題になっている絵本です。
絵本の作者の「カピリナ」は、ふたりの作家によるユニット名です。
これは、ハワイ語で”きずな”を意味しています。
監修の井之上喬さんは、早稲田大学生時代に、「ナレオハワイアンズ」というハワイアンバンドでビブラフォンを担当されていたそうです。
卒業後、日本楽器製造(現・ヤマハ)で働かれ、現在のパブリックリレーションズという会社を設立されています。
「ハワイ島のボンダンス」の絵本の時にもお伝えしましたが、日本とハワイには深いつながりがあります。
音楽にも憧憬の深い井之上さんは、ハワイの音楽から学ばれたこともあったかもしれません。
絵本の中に、「なかなおり」の歌が添えてあるのも、”きずな”を音楽の力で伝えようとしたのではないでしょうか、そんな気がしてきます。
井之上さんは絵本の最後にこう書いています。
〜人はひとりでは生きていくことはできません。本質的に”かかわり、かかわられる”存在といえます。
グローバル社会では、多様な文化や価値観を持った存在との、かかわりあいが求められます。
私たちは子どもたちが他者とのかかわりを通じて、豊かな人生を形作っていけるように支援します。〜
この絵本の「なかなおり」では”相手の気持ちをかんがえる”ということを主題にしています。
クマくんはお家を作る、という同じ目的を通して、ビーバーくんの気持ちを理解しようとします。
お家を作りたい気持ちに自分が触れることによって寄り添うことが出来てきます。
でも、私たちの日常には、目的が違うときも、場面が違うことの中でも寄り添わなければならないこともあります。
どんな状況に置かれても、今一番大事なことは何かをお互いに思いあえることが必要なことのように思います。
なかなおりは、簡単ではないかもしれません。
絵本の中の歌の歌詞にあるように、自分が悪いと認めることも並大抵なことではありません。
クマくんは勇気を出しました。でも勇気を出したのはクマくんだけではありません。
クマくんを”許す”ビーバーくんの勇気も素敵なことだと思います。
あなたはケンカしている人はいませんか?
あなたはなかなおりできましたか?
(赤鬼こと山ア祐美子)
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