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書き下ろし連載140
偉大な者
ルカ福音書7章28節

細井保路

   およそ女から生まれた者のうち、ヨハネより偉大な者はいない。しかし、神の国で最も小さな者でも、彼よりは偉大である。

   ヨハネという人物は、イエスさまよりも先に活動を始め、「もう一度神に立ち帰れ」というメッセージを発信しました。「神に立ち帰れ」という宗教的な言葉は、もう少し一般的な言葉で表現すれば、「世渡りのためや、日々の苦労に振り回されて、人間としての大切なことを忘れてはいないか。本来の自分の居場所に立ち帰れ」ということなのです。

   そのヨハネは、イエスさまが登場すると、イエスさまのスケールの大きさを認め、自分の弟子たちにまでイエスさまを紹介します。それに対して、イエスさまも、ヨハネこそ歴史上のどんな預言者よりも優れていると彼を評価します。でも、そのすぐ後に、「神の国で最も小さな者でも、彼よりは偉大である」とつけ加えたのです。

   人を評価したり、批判したりした瞬間に、私達は、この社会の尺度、つまり、権力や、名声や、能力や、お金を基準にして幸福を量っている自分に気づきます。そして、ものごとはそういう尺度でしか量れないと思い込んでしまうのです。でも実は、やさしさや、誠実さといった尺度ももう一方にはあって、それを見失ってしまっては、どれほど社会的に成功しても、本当の幸せを手放してしまうことになるのです。それをイエスさまは「神の国」という言葉を使って想い出させようとなさるのです。一見世間的な幸せとは縁遠いような「まごころ」を失ってはならないのです。そして、どんなに弱く小さい者でもやさしく受け入れられる理想的な世界を「神の国」と呼んでいるのです。現実の社会で力強く生きていきながらも、やさしさを忘れずにいることは、簡単なようで、案外難しいものです。

   私達は、人の幸せの核心部分にある、目には見えない大切なものを、たえず思い出しながら生活しなくてはいけないと思います。


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