とても暑かった夏が過ぎて、一年中で一番美しい季節になってきました。
山々をこんもりと青々とさせていた緑たちが姿を変えていきます。
赤や黄色だけではなく、その微妙な色模様は私たちの目を楽しませてくれますね。
そんな私たちの目をもっと豊かにしてくれる場所が、美術館です。
芸術の秋には、様々な展覧会が待っています。あなたの住む街にもきっと、素敵な作品が紹介されていることでしょう。
あれ?!ちょっと待って・・・ここは、なんだか、真っ黒ばかり・・・いったい何の展覧会でしょう・・・。
ピエールくんはベッドのなかで、おびえています。だって、あたりはまっくらだから。
ピエールくんは不安でいっぱい、本の中の夜は、黒というより紺色だったから、「なんで今夜の外はまっ黒なの?」「青い夜なら、こんなにこわくないのに」
ピエールくんは、きょうぼうなオオカミにおいかけられる夢を見ました。動物園で見たオオカミは黒ではなく灰色や茶色で、赤い毛のオオカミさえいました。あれはたぶん本物じゃなかったんだ、本物は、まさにピエールくんをたべようとしているどうもうでまっ黒い、黄色い目をしたオオカミです。ピエールくんはベッドの中で悲鳴をあげました。
「ママ、ぼく、夢ではぜんぶの色があるといいな。だけど、黒だけはいやだ」
朝起きてパパに話します。「パパ、どうして黒なんてあるの?ほかの色みたいに黒も色なの?」「もちろん、黒だって色だし、きれいな色でもあるんだよ。おしゃれなパーティには,黒い服を着るんだ…長いこと黒と白はほかの色とはちがう、とくべつな色って考えられていたんだよ。つまりね、黒と白は、赤や青や黄色や緑と同じように本物の色って言われるようになったんだ・・・」でも、ピエールくんはパパの言う通りには思えませんでした。
今日の学校の先生のお話は、すごくこわい"青ひげ"です。ピエールくんはふしぎに思います。「どうして黒いひげが黒すぎると青く見えるんだろう?」ピエールくんは友達とも遊ばずに自分にたずねます。「・・・青はぼくにとって最高にきれいな色だし、ママがいちばん気にいってる色なのに。青が黒みたいであるはずがないよ。そんなのありえない。」
おじいちゃんがお迎えに来ています。公園に行くとカラスがちかづいてきました。「カラスの羽や尾っぽをよくみてごらん」とおじいちゃんが教えます。「とっても黒くて輝いている、紺色にも見えるよ」ピエールくんはさけびます。「まるで青ひげの男のひげみたい!」
カラスにチョコレートをひとかけ投げるとカラスはくちばしでくわえとります。おじいちゃんが「ふしぎだね。まっ黒なくちばしの中では、チョコレートの茶色がなんだかあかるく見えるよね」「茶色と黒ってぜんぜんちがうね。つまりさ、チョコレートは大好きだけど、茶色より黒の方がきれいだとおもうんだ」とピエールくんは答えます。
土曜日、パパはピエールくんをつれて、ピエール・スーラ―ジュという画家の作品を観に行きます。スーラ―ジュの絵は遠くから見るとまっ黒です。けれど、近づいてみると「パパ、黒の中にたくさんの色が見えるよ!・・・」「そのとおり。・・・光がふりそそぐと・・・あたらしい色になるんだ」それは、ほんとうにきれいで、まるでそれぞれの絵から色のついた音楽が小さくきこえてくるようです。
「パパ、今じゃぼく、黒が大好きだよ。だって黒ってほかのぜんぶの色になれるから。」
”子どもに美術作品を見せながら自発的に何かを学び取らせるという教育法は、フランスでは古くからある慣習です。たとえば、パリの美術館で小中学生たちが課外授業を受けているのは日常的な光景です。”と訳者の松村さんは述べています。日本でも、そんな光景に出くわすことがあります。中学生などが懸命にメモを取りながら鑑賞していたり、ギャラリートークやワークショップなども盛んになってきたように思います。この絵本では、ことさら色彩にこだわって描かれています。ミシェル・パストゥローはフランスの歴史人類学者です。専門的な多くの著作がある中で、今回初めて子供向けに描かれました。
ミシェルさんのメッセージの中で”〜「黒と白は色ではない」という間違った見方が広く行きわたっている〜”とありました。私は有難いことに、今までそんな考えは思いもしない中で過ごしてきましたが、歴史をひも解くとそういう見方があるのだということもわかりました。というのも、私のワードロープの中ではなんと黒が多いことか・・・私は、特に黒が好きです。とはいえ、ピエールくんの様に闇の黒は怖いに決まっています。そんな怖い黒が大好きになるまでの、家族の導きが素敵です。日常の中に色を見つけることで学んでいきます。おじいちゃんがカラスを通して、孫のピエールくんに黒を伝えるのはすごいなあって思います。なかなか親子で美術館に行く機会は少ないかもしれませんが、絵本のパパの様に一緒に楽しみ共に学ぶことが出来るといいですね。スーラ―ジュ作品は日本でもいくつかの美術館で収蔵されています。この絵本に出会って、ぜひ鮮やかな黒を感じに行くことにしようと思います。絵本にある〜まるでそれぞれの絵から色のついた音楽が小さくきこえてくるようです〜が心に残ります。黒だからこそ聞こえる音があるのかもしれませんね。
「眼で聴く、耳で見る」この絵本の大事なメッセージのように思います。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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