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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2018年6月号)



『だむの おじさんたち』

加古里子 さく・え

ブッキング


   今年の梅雨いりは、いつごろになるでしょうか。南の地方では、すでに雨の季節になっているかもしれませんね。四季折々の中でも、この梅雨の季節は少しうっとおしくも感じますが、自然界にとっては、成長を助ける大事な命の水です。ところが時として、多すぎる雨に見舞われることがあります。まるで津波の様に、道路にも水があふれたり、山が崩れて土砂となり、家も人の命までも飲み込んでしまうことがあります。このように水の力はとても大きいのです。この水の力を利用した施設がダムです。私たちの周りにはたくさんのダムがあります。そのダムがどうやって作られたかを、このおじさんたちに聞いてみましょう。

やまおくの たにがわを、おじさんたちがのぼっていきます。
「なんだ、なにしてるんだ?」やまのけものやとりたちが、しんぱいそうにみています。
そのおじさんたちは、はつでんしょをつくるためにしらべていたのです。かわのみずをせきとめて、だむをつくることになりました。

だんぷとらっく、ぶるとーざー、ぱわーしょべる、こんくりーとみきさーしゃ、くれーんとらっく、いろんなくるまがやってきます。ひやけしたおじさん、はちまきのおにいさん、がっしりしたおじさん、せいたかのっぽのおにいさん、たくさんのひとがきて、いよいよこうじがはじまりました。おひるやすみには、たくわんをかじるおじさん、ひるねをするおじさん、はーもにかをふいているおにいさん、てがみをかいているおにいさんもいます。こうじは よるもひるも、こうたいでつづきます。
「おつかれさん」「あと、たのんます」「ごくろうさん」
やまのけものが ねているあいだもよなかも おじさんたちは ねむらない。おきています。うごいています。はたらいています。
だだだだだだ がらがらがら ういんういん こんくりーとがつぎからつぎへとはこばれてきます。ぴぴいー ぴいっ ふえとてで あいずしながら おじさんたちはすこしずつ だむをつくっていきます。こうじは なんねんも なつもふゆもつづきます。「おーい、えらくふってきたぞ」「すべって おちたら いのちがないぞ」おじさんたちのことばはらんぼうでこわいです。
「くにのおっかさん、なかせないように きをつけろ」―――でも、やさしいです。ゆきにもかぜにも、ふぶきにも、あらしにも、はたらくおじさんたちは まけません。

とうとう、だむができました。おじさんは、じっとだむをみています。おじさんはわらっています。ばんざーい、だむのおじさんたち!


   2018年5月2日 加古里子さんが天に召されてしまいました。この場でも加古さんの絵本を紹介してきました。本当に残念でなりません。今回は膨大な加古さんの絵本の中から、記念すべきデビュー作品をご紹介します。

   「だむのおじさんたち」は1959年「こどものとも」で発表されました。絶版になってから、2007年に復刊されました。再刊に向けての加古さんからのメッセージです。
「この絵本は、工場の研究所勤務の昭和30年代、休日は工員住宅の中の子ども舎の世話をしていた私が、福音館書店編集長の松居さんの依頼ではじめて描いた作品。時代にふさわしいものという大きなテーマなので、停電が頻発する当時ゆえ、水力発電のダム建設を題材とした。半世紀を経て、絶版だった本書が再刊されるに当り、種々の感慨と共に、この安定完成された水力発電の建設技術が、再び政治とカネに乱されぬよう希求している所である。」


   加古さんの工学博士、技術士という肩書や、研究所勤務という経験から、多くの取材を経てダムがどのように作られ、人々に役立つものかを伝えてくれました。絵本の中身は、そんなお堅い感じとは全く違っていて、どのページも細やかな加古さんの絵が踊っています。働く車たちの動きが細密に描かれ、工事には動物たちも参加しています。生き生きと楽しそうに手伝う動物たちが微笑ましくて、おもわずにっこりしてしまいます。一方おじさんやお兄さんたちの働く姿、昼休みの様子まで伝わってきて、当時の雰囲気が目に浮かんできます。最後のページのおじさんの表情でダム完成の苦労と喜びが湧き上がります。そして、だむのおじさんたちへの加古さんの愛情と温かな敬意が溢れています。

   復刊絵本への思いを語る最後に、加古さんはこう結びました。2007年のことです。
「原子力発電の絵本は何度もオファーをいただいたが、納得できる数字の根拠を用意してもらえなかったので、全て断りました。」

   子どもの日を前に天に昇られた加古さん、 雲の上のかみなりちゃんには、もう会えましたか?

(赤鬼こと山ア祐美子)


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