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赤鬼からの手紙(2018年5月号)



『ボイジャーくん』

作 遠藤賢司
絵 荒井良二

白水社


   急に気温が上がったり、ちょっと肌寒かったり、でも確実にあたりの緑は鮮やかになっています。 太陽がやけに眩しく、刺す光が白く感じられるのもこの季節ですね。 ”爽やか”という言葉がぴったりな毎日がきました。太陽が昇ったら外に出てみましょう。 今まで気づかない花々や鳥のさえずりにも出会うことがあるかもしれません。 そして、日が落ちて夜になったら、空を見上げてみましょう。 もしかしたら、私たちの知らないところで、宇宙の内緒話が聞こえるかもしれませんよ。

きみが とてもかなしくて ねむれない夜には
目をとじて じっと胸のおくを すましてごらん
そしたら ぼくのよぶ声  ホラネ きこえてくるだろう?

やあ、ぼくはボイジャーくんだよ
ほんとうのなまえは  ソウ・・・・・・
「太陽系惑星探査宇宙船 ボイジャーくん」っていうんだよ

どうしたんだい いっしょに ならんで およごうよ
宇宙の海を 犬かきおよぎ

ひとりぼっちのこの海は どんなにさけんでも
こだまは ドンドン 遠ざかる
宇宙の波は 大波小波

エッ ぼくのはなしを 絵本にしたいって!
はりきって ドンドン はなしちゃうぞ

「ボイジャーくん」 遠藤賢司&荒井良二

   不覚にも、私はこの絵本に出会う機会を逸していました。 今月号の絵本選びをしながら、ふとある日の新聞記事に目が留まり、この絵本にたどり着きました。 ”たからもの”というコラムの記事で、〜荒井良二さん「エンケン」さんのハーモニカホルダー〜という内容でした。

   荒井良二さんはリンドグレーン記念文学賞を日本人で初めて受賞なさったという力のある絵本作家です。 子どもたちの目線から描く独特の絵の世界が豊かな気持ちにさせてくれます。 「エンケン」さんは、個性派シンガーソングライターの遠藤賢司さん。 昨年10月25日に70歳で旅立たれてしまったばかりです。 自分の世界を「純音楽」と称して様々な活動をしていました。 今も「エンケンさん」を慕い、目標にする若者も少なくありません。 この二人がタッグを組んだ絵本ができていたのを知って、居ても立っても居られない気持ちになりました。

   記事の中で、荒井さんは「全身全霊をかけて音楽と対峙する姿に、自分の絵本や創作活動に通じるものがある」と語っています。 そして、忘れられないライブ、2008年9月3日、吉祥寺で行われた絵本出版記念イベントでのこと、遠藤さんがギターとハーモニカで熱唱する後ろで絵を描いた荒井さん。 「エンケンさんはいつも通り真剣そのもの。生半可な気持ちじゃいけないと必死でした」と語る。 ライブ終了後に、首にかけていたハーモニカホルダーを外すと「これあげるよ」とエンケンさんが手渡してくれたそうです。 中学生の頃からのファンだった荒井さんにとって、それが”たからもの”になった、という内容でした。

   絵本「ボイジャーくん」についているCDを聴きながら、ページをめくると、「エンケンさん」の囁くような、呟くような声がほんとに宇宙からの呼び声のように聞こえてきて、その浮遊感が絵本の中に溶け込んでいくような気持になります。 あの絶叫するようなロックの声の人がこんなにも優しくこんなにも温かく呼びかけてくれる、一人じゃないんだって思えて、なんだか涙が出てきました。 荒井さんの絵は、エンケンさんの詩の世界を見事に描き切っています。 遥かに笑顔のボイジャーくんがぐるぐるしている、今もどこかにいてこちらに話しかけていてくれる、幼ければ幼いほど、この中に入り込むことが出来るでしょう。

   出版社の白泉社から「遠藤さんが作った曲を絵本にしたい」との依頼で出会った二人、その出会いは私たちに大きな”たからもの”を届けてくれました。

(赤鬼こと山ア祐美子)

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