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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2018年4月号)



『ふうと はなと たんぽぽ』

いわむらかずお
童心社

   あんなに厳しい寒さの冬が一気に去ってしまいました。 何もかもが輝いて新しい命がたくさん生まれる季節です。 鮮やかな緑の木々の陰で鳥のさえずりが聞こえてきます。 色とりどりの花々のまわりには、蝶たちが舞い踊っています。 春の訪れは、私たちだけでなく生き物たちすべてにとっての喜びです。 そうっと、野原をのぞいてみましょう、 きっと、小さな生き物たちのお喋りが聞こえてきますよ。

「のはらで あそんでくる」 ふうと はなが いいました。
「きをつけて、だれかが きたら、くさのかげで じっとしているんだよ」と おかあさんがいいました。のはらには、あおいそらが ひろがっていました。
きいろい はなが、さいていました。
「こんにちは。わたしの なまえは はな。あなたの なまえは?」
はなが いうと、「たんぽぽ」 どこかで こえがしました。 
「だれか いる。じっとしていよう」ふうは うずくまりました。
「はなって、すてきな なまえ」かおを だしたのは てんとうむし。「ぼくは、たんぽぽの きいろい はなが すき」すると、べにしじみが とんできました。
「だれか きた、じっとしていよう」はなも うずくまりました。
「ぼくは たんぽぽの あまい みつが すき」すると、みつばちが とんできました。「わたしは たんぽぽの、かふんが すき」
「はなは たねを みのらせ、あたらしい いのちを うむんだよ」てんとうむしが いいました。「あたらしい いのち?」
「たんぽぽ ぽぽぽ、ぽ ぽ ぽ」かぜがふいて わたげが くずれました。「かぜが たねを はこんでくんだ」
「ぼくの なまえは ふう。かぜのことだよ。」ふうが いうと、「いなまえだね。かぜは いのちを はこぶんだ」てんとうむしは くるくると まわりました。
「ぼくは かぜ。いのちを はこぶんだ。」 「たんぽぽ ぽぽぽ、ぽ ぽ ぽ」
ふうは かぜに、 はなは わたげに なりました。
うちにかえると ふうと はなは、おかあさんに、たんぽぽの はなしをしました。
「そうよ、ふうは げんきな かぜのこと。はなは、きれいな はなのこと。 あたらしい いのちを うみ、 そだてるの」 おかあさんは いいました。


   ネズミの大家族を主人公にした「14ひきシリーズ」でお馴染みのいわむらかずおさんの待望の新シリーズが2010年にだされました。これは、その2作目になります。今度の主人公は2匹の野うさぎです。1作目の「ふうと はなと うし」も、2匹の出会う様々な生き物たちとの驚きや喜びで溢れていました。何よりも”いのち”について大切な言葉で埋め尽くされていました。この2作目「ふうと はなと たんぽぽ」では、2匹の名前にこめられた意味が伝えられていきます。自分の名前の意味に気づく2匹の驚きと、たくさんの出会いの中で気づくことが出来た2匹のわが子へのお母さんの喜びがひしひしと届きました。そして最後に、おっぱいを飲んでぐっすり眠る2匹は、まだまだ赤ちゃんなんだって思います。そのお母さんの胸のあたたかさが絵本全体を温かくしてくれています。絵本を抱いて、眠りたくなりますね。 栃木県那須郡那珂川町にある「いわむらかずお絵本美術館」通称「えほんの丘」は雑木林や田んぼ、小川やため池などに囲まれた里山にあります。いわむらさんのねずみたちや野うさぎたちは、そんな豊かな自然の中で生まれています。いわむらさんは握りこぶしほどのちいさな野うさぎと出会い、うさぎたちの動きや親うさぎとの様子など日がな一日、這いつくばって、じっと見つめていたそうです。そうやって、この絵本になったのですね。

   もう一人の主人公「たんぽぽ」についていわむらさんはこういっています。
<日本のタンポポを、さがしてみよう>
日本には大きくわけて、日本のタンポポとセイヨウタンポポがあります。 セイヨウタンポポは1年じゅうみられますが、日本のタンポポは春にだけ咲きます。 そして、日本のタンポポの花がセイヨウタンポポと大きく違うのは、 虫たちの助けを借りて受粉する必要があるということです。 ふうとはなが出会うのは、日本のタンポポです。 みなさんも、探しにでかけてみてください。


   いわむらさんの絵本についてのメッセージです。
「絵本と子どもの出会いはいろんな意味で増えていると思いますけれど、なんといっても親子の結びつきが、絵本のもつ役割としてはいちばん大きいんじゃないでしょうか。お母さんやお父さんがだっこして、肌がふれあうような、ぬくもりが伝わる距離で読んであげるということが。その時間が素晴らしい時間なんだと思います。親子ともに至福の時間だと。私のように、かつて子どもとそういう時間を持った世代からすると、そんな幸せな時間、あっという間に終わってしまう。今の時代、いろんな種類の、たのしくてうつくしい絵本がいっぱいあるんだから、お母さんやお父さんの目で自分の子どもたちに選ぶところから、愛情なんじゃないですか。ほんとうに好きな絵に出会ったら、ほれぼれとしてそこから動けなくなってしまう…。それが絵ですから!自分で選ばないなんてもったいない。最初はわからないと思っても、美術館などで絵を見ることを重ねていくと、だんだんこれはいい絵だなあとか、絵本を味わえるようになってくると思いますよ。」

(赤鬼こと山ア祐美子)

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