あけましておめでとうございます。2018年、平成30年に当たる今年は戌年が巡ってきました。「戌」は「滅びる」を意味する「滅」、草木が枯れる状態を表しているという見方もあるそうですが、実は「まもる」、「植物が育ち、花が咲き、実をつけて食べごろが過ぎると、実を落として、本体の木だけは守る」という意味があるのだそうです。「滅び」のあとには新たな命が生まれ、その命を「守る」という気持ちがします。
でも、子供たちには厳しい寒さの中でもぴょんぴょん駆け回る「犬」の方がいいですよね。ここにも元気な犬が飛び出してきました。あれあれ・・・なんだか困った顔をしています、どうしたのでしょうか
ハリーは、くろいぶちのある しろいいぬです。おふろにはいるのだけはだいきらい。
あるひ、おゆをいれるおとがきこえると、ブラシをくわえて にげだして・・・うらにわにうめました。それから、そとへぬけだすと どうろこうじをしているところであそんで どろだらけになったり、せんろのはしのうえで すすだらけになったり、ほかのいぬたちとあそんで、もっとよごれてしまったり、せきたんとらっくのすべりだいでまっくろになって、とうとう、ハリーはしろいぶちのある くろいいぬになってしまいました。
すっかりくだびれて、おなかもすいてしまったので、ハリーは はしってうちへかえりました。うちのうらぐちをみていると、だれかがのぞいていいました。
「うらにわに へんないぬがいるよ。うちのハリーは、いったいどこへいったのかしら?」
「ぼくが ハリーなんだよ」
ハリーは さかだちしたり、しんだまねしたり、ダンスやうたもやりました。なんどもなんどもこんなげいとうをやってみせたのに みんなは くびをふっていいました。
「なんだか、ハリーみたいだけど、これはハリーじゃないよ」
ハリーは にわにうめたブラシをみつけてくわえると、おふろにとびこみました。せっけんだらけになったハリー、まほうみたいによごれがおちます。
「ハリーだ!ハリーだ!」
ハリーは、もとのように、くろいぶちのある しろいいぬになりました。
さて、そのあと、ハリーはどうなったとおもいますか?
犬といったらこの絵本「どろんこハリー」。
1964年3月に出されました。50数年前に出された絵本ですが、何度も何度も新たに出されています。これだけ長い間親しまれているのは、主人公のハリーが巻き起こすことが子どもたちもついついやってしまいそうなことだったり、思わずやってみたくなることだったり…なんと言ってもハリーが泥だらけになったりするところが子どもたちは大好きです。そして、お母さんたちにとっては「うちの子もお風呂が嫌いで、困っています…」と、ハリーが自分でお風呂に入るところにも支持を受けているようです。きらびやかな色使いのない、シンプルな黒と白の絵はハリーのぶちの姿をより際立たせながら、ハリーの表情まで細やかに表現しています。
この絵本のもう一つの魅力は、体が汚れてしまったハリーが別の自分に見えてしまって、家族にわかってもらえない哀しさを味わいます。どうしたらわかってもらえるかを考えて、あんなに嫌いなはずのお風呂に飛び込む決心をすることです。ハリーは思い切り遊んだり、冒険したり、いろんなことを体験しながら、やっと帰ってきます。そして、そのあとには
”じぶんのうちって なんて いいんでしょう。ほんとに すてきな きもちです。”と絵本の中で語っています。どんなことがあっても、迎えてくれる自分の場所の安心感がひしひしと伝わってきます。ハリーのほっとした表情が本当にすてきです。
賢治童話は挿絵だけのものが多かったですが、絵本になった作品もだんだん増えてきました。この絵本は2009年10月16日に出版されています。月のきれいな秋の絵本として選びました。竹内通雅さんの絵の力強さが、賢治さんの描く世界をよりリアルに伝えてくれているように感じます。目もくらむような月の輝きが画面から目に飛びこんできます。賢治さんの描く電信柱の絵も味わいのあるものですが、この絵ならきっと賢治さんも納得なさっているのではないでしょうか。
今、世界中には居場所のない子どもたちがたくさんいます。
どうか、そんな子供たちにも、迎えてくれる暖かな場所が増えることを願っています。
そして、いつも私たちを迎えてくれる場所がいろんなところにあることに感謝して、今年もよい1年でありますように!
(赤鬼こと山ア祐美子)
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