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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2017年9月号)



『きりのなかのはりねずみ』

作 ノルシュテイン コズロフ
絵 ヤルブーソヴァ
訳 こじま ひろこ

福音館


   今年の夏は、思いもかけないような大雨や雷、雹まで降ったところもありました。被害に遭った地域も少なくありません。1年中どこかが災害に見舞われてしまう私たちの国は、そのたびに誰かの助けを必要としています。そして、助けられたことのある人は、今度は誰かを助けたいという心構えが生まれてきます。これは災害の時だけではありませんね、日常生活の中でも、そんな場面はたくさん出てきます。誰かを思うこと、誰かの気持ちに寄り添うことが出きるようになっていたいものです。

   霧の中で、星を見つめているはりねずみがいます、このはりねずみの傍には誰がいてくれるのでしょうか・・・

あたりがうすぐらくなって、はりねずみは こぐまのいえにでかけます。ふたりで おちゃをのみながら ほしをかぞえるのです。こぐまのだいすきな、のいちごのはちみつにをもってきました。空には星がまたたいています。「あっ、水のなかにも お星さま!」そんなはりねずみのようすをみながら、みみずくが あとををついてきました。
はりねずみは あるきながら こぐまのことを かんがえていました・・・おやっ?
きりのなかに しろいうまが うかんでいたのです。
はりねずみは どきどきしてきました。
「しろうまさん、きりのなかで おぼれないかしら?」
はりねずみは おもいきって きりのなかにはいっていきました。でも、しろうまのすがたは みえなくなっていました。きりのなかは なんだかこわくてたまりません。おおきなはっぱのしたに、かたつむりがでてきたり、ぎんいろのがが、クリン、クリン、とかすかなおとをたてておどっていました。はりねずみも いっしょにおどりました。あたりはすっかりくらくなっています。はりねずみはひろったこえだで きりのなかを さぐりながら すすみます。「うわーっ」!おおきな かしの木にぶつかり、びっくりして にげだしました。そのとき、のいちごのつつみをわすれてしまいました。 「はーりーねーずーみーくーん!」とおくから、こぐまのよぶこえがきこえてきました。
・・・さて、はりねずみは ぶじにこぐまのいえにたどりつけるのでしょうか。


   なんて美しい絵本でしょう!映像の詩人と呼ばれる ロシアのアニメーション作家 ユーリー・ノルシュテインの作品です。1975年に短編アニメーションの傑作として描かれた作品が見事に絵本になって生まれ変わったものです。

   ノルシュテインはあの手塚治虫やジブリ作品を手掛けたの高畑勲さんも絶賛する作家です。87年に広島で行われた国際アニメーションフェスティバルで審査員として同席した手塚さんはノルシュテインにサインを求めました。彼は手塚さんにベレー帽をかぶったはりねずみを描いてくれたそうです。そんなやり取りがとても温かい人柄を感じさせてくれます。そして、何度か来日しては、日本の若者達に熱のこもった指導をしてくださったそうです。こんなメッセージが送られました。

   −「芸術というものが何のために存在するのか、という話をしましょう。人間というものはいつか必ず死にます。だからこそ芸術が存在するのだと思います。生きている人たち、生き残っている人たちに、生きる意味を与えるために芸術は存在しているんです。この人生の中でみんなを楽しませる、あるいは気晴らしをさせるだけではなくて、生きる意味、まさにそれを与えてくれるために芸術はあるに違いありません。これは芸術家たちは皆このことを知っているんです。観客たち、あるいは作品を受け入れる人たちも皆知っているんです。・・・」

   アニメーションの世界をアートにまで引き上げて、その質の高さを芸術と呼んでいます。今や日本は、世界に誇るアニメ大国になっています。作家を目指す若者たちもたくさん溢れています。自分に向き合いながら、自分の表現を見つけていく、そしてそれが近くの人や遠くの人にまで寄り添うことに繋がっていくようなきがします。

   2014年のロシアソチオリンピック開会式には、この「霧の中のはりねずみ」がロシアを代表するモチーフとしても発表されました。それだけ、ロシアの人々にとってもはりねずみは愛すべき存在なのですね。3年後の日本で開催されるオリンピックは、スポーツの祭典だけでなく、若者たちの芸術への表現の場になってほしいと願います。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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