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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2017年6月号)



『さっちゃんのまほうのて』

たばたせいいち
先天性四肢障害児父母の会
のべあきこ
しざわさよこ

偕成社


   南の方では、もう梅雨入りしたようです。日本の四季には、植物の恵みをもたらすための業もちゃんと用意されています。この間に、植物たちは、より一層緑が濃くなり、生き生きとしてきます。そんな大事な雨ですが、この梅雨の時期の雨は、ともすると大雨になることもあり、過去には大きな被害をもたらした雨もありました。でも、子どもたちは、雨でも外に出ていきます。お気に入りの傘をさして、長靴をはいて、こんな日にしかできない遊びを探します。みんなが傘をさして外に飛び出していくのに、一人だけ窓から外を見つめたままの女の子がいます、いったいどうしたのでしょうか。

さっちゃんは きょう、どうしても おかあさんに なりたかったのです。
ようちえんのすみれぐみでは、ままごとあそびが とてもさかんです。あばれんぼうのあきらくんまでもが、おとうさんやくでだいかつやくしています。さっちゃんのおかあさんのおなかには、あかちゃんがいてもうすぐうまれそう、だから「さっちゃんも おかあさんに なろっと!」とひとりできめたのです。でも、おかあさんになるのは、いつもせのたかいみよちゃんか まりちゃん。さっちゃんも ながいスカートをはいてみたいのです。
「あたしだって、おかあさん やりたいもん」さっちゃんは いいました。
「さっちゃんは おかあさんには なれないよ!だって、てのないおかあさんなんて へんだもん」 まりちゃんが まっかなかおをしていいました。
「あたしだって、おかあさんになれるよ!」さっちゃんは、エプロンをにぎりしめたまま、まりちゃんにとびかかりました。さっちゃんは、エプロンをなげつけて ようちえんをとびだしました。「みんな みんな だいっきらい! だいっきらい!」

 「まあ、さっちゃん どうしたの!」おかあさんが びっくりして ききました。さっちゃんは ハーハーあらいいきをして たっています。「おかあさん さちこのては どうして みんなとちがうの?どうして みんなみたいに ゆびがないの?どうしてなの?」
さっちゃんの みぎてには いつつのゆびがないのです。
おかあさんは、もうむねがいっぱいになって、さっちゃんを ぎゅっと だきしめました。
「・・・さちこは おかあさんの おなかのなかで けがをしてしまって、ゆびだけ どうしても できなかったの。・・・」
「しょうがくせいになったら みんなみたいに はえてくる?」
そのよる ふとんのなかで さっちゃんは いつまでも ねむれませんでした。
つぎのひ、さっちゃんは ようちえんを やすみました。
さっちゃんは どうなったのでしょうか・・・


   童話作家である田畑精一さんと「先天性四肢障害児父母の会」、野辺明子さん、志沢小夜子さんの共同制作として描かれた作品です。障がいをもって生まれた子どもを持つ親たちの想いと見守るまわりの方々の想いが織りなされてできた作品です。「父母の会」は1975年8月に発足、”いのちの重さに差をつけず、互いにありのままの姿を認め合える社会を目指し、「みんなちがっていいよ」というメッセージを発し続けている”とあります。全国各地に支部があり、勉強会・シンポジウム・この絵本の原画展、子どもたちとのキャンプなど様々な活動をしています。

   昨年、2016年7月に「津久井やまゆり園」で19名の大事な命が、たった一人の青年の暴挙によって奪われる、という痛ましい事件がありました。容疑者の青年は「障がい者はいないほうがいい」との考えで、特に重度の人を選んで殺傷したとの報道でした。どうして、こういう考えの青年が存在してきたのか、その背景を考えずにはおられません。社会全体の問題、私たち自身の問題として考えていかねばならないと思わされました。

   児童書専門店「赤鬼」には、障がいをもった1人の少年のお客様がいました。「たくじくん」といいました。彼は、店に来ると棚から全部本を出して、本の山になった中から大好きな長新太さんの挿絵、灰谷健次郎さんの「マコチン」を見つけては笑顔で胸に抱えていました。言葉を持たない彼は、小指を唇に当て、人差し指で鬼の角を作って見せて、「赤鬼」に行きたいとお父さんにせがんでいたと聞きました。5歳までしか生きられないと言われた彼は、40歳まで生き抜きました。ご両親をはじめ、まわりの方々の愛情と見守りがあったに違いありません。「赤鬼」もその一助になれたかと思うと、今も彼のくるくるした目の笑顔が思い出されます。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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