美しい緑の季節がやってきました。真夏の太陽よりも、もっと白く輝くような気がします。春の温かな陽射しから、あのギラギラした空気に生まれ変わっていく最初の光が輝きだします。芽吹いた木々も緑色が濃くなって、空の青さをいっそう際立たせてくれます。こんな時は、空を見上げる時間も増えてきていませんか?
電車に乗っても、下ばかりをのぞいている人が多くなってきました。車窓から眺める景色は、日々変わっています。季節の変わりめさえも気づけなくなっているのかもしれません。
四季のある国に生まれた私たちにとって、緑は最も身近な色のように感じますが、
あなたにとって、大事な色は何色ですか?
「最初の質問」
今日、あなたは空を見上げましたか。
空は遠かったですか、ちかかったですか。
雲はどんなかたちをしていましたか。
風はどんな匂いがしましたか。
あなたにとって、
いい一日とはどんな一日ですか。
「ありがとう」という言葉を、
今日、あなたは口にしましたか。
樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、
立ち止まったことがありますか。
街路樹の木の名をしっていますか。
樹木を友人だと考えたことがありますか。
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いちばんしたいことは何ですか。
人生の材料は何だとおもいますか。
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時代は言葉をないがしろにしている-
あなたは言葉をしんじていますか。
2015年に亡くなられた、長田弘さんの「最初の質問」という詩です。
中学生の国語の教科書にも採用されているとのことですが、2013年、いせひでこさんが、絵をつけられて、絵本になりました。
長田さんは詩人でもありますが、児童文学科、翻訳家、随筆家、文芸評論家、絵本作家としての作品もあります。ある意味で哲学書の部類に入るような、この詩に絵を描くというのは、どんなにか困難であったろうかと思いますが、こうして描かれた世界のページをめくっていくと、もう、この描き方しかないというような気がしてきます。長田さんのいせさんへの強い信頼の思いがうかがえます。いせさんは、その想いを受けて長田さんの言葉に託された意味を丹念に紐解き時間をかけて描かれたのでしょう。
いせひでこさんは、右目が見えていないそうです。絵を描き続けた疲労の末に網膜剥離という、画家にとっては、最も過酷な運命に出会ってしまいます。
でも、だからこそ、"眼が壊れても描けるものがある"と…信じて疑わなかった眼の中で内面や感性の部分こそを描きたいという気持ちになっていったそうです。今までは、素早く正確で丁寧なスケッチを得意としていたけれど、見えない枝は描かくなくてもいいんだ、感じたままを描く「わたしを木にしていいんだ」と、いせさんは語っています。
この絵本の中でも、大きな木は印象的に描かれ、詩の内容を示す重要な位置を占めています。いせさんの絵によって、この詩は、新たな読者を呼び込んでいます。
この絵本は読み聞かせには不向きのように感じます。声に出して読み上げるよりも
ぜひ、お母さんたちに手に取っていただきたいです。
長田さんの言葉といせさんの絵の世界に向き合いながら、じっくり味わってください。
そして、いつの日か、子供たちが成長して、ふと出逢うような場所に、この絵本が置かれていたらと願います。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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