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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2017年3月号)



『おおきな きが ほしい』

さとうさとる  : 文
むらかみつとむ : 絵

偕成社


   春一番が吹き、いろんな植物の芽吹きを待つばかりの日々ですが、まだまだ油断はできません。 3月の降る雪も珍しくはありませんからね。 とはいえ、太陽は少しずつ輝きを増しています、風たちもふうわりふうわりとしてきました。 こんなときは、春の空気をつかまえたくて、高い場所にのぼってみたくなりませんか?風の向きを感じたり、お日様の光の届くところが見えたり、草花のお喋りや鳥たちのさえずりも、聞こえてくるような気がします。 あっ、この男の子は、こんなことを言っています、”おおきな木がほしい”って・・・

「おおきな おおきな きがあると いいな、ねえ おかあさん。」
「おや、まあ、どうしてなの。」
かおるという名前の男の子が、お母さんと話しています。
かおるは、おおきな木にのぼってみたいのです。あぶなくないかしら、とお母さんは言いますが、実はおかあさんもかおるくらいの女の子だったころ、木登りしたことがあったのです。
おかあさんは、その時の嬉しかった気持ちはいつまでもよく覚えています。でも、庭には、ちっぽけな木が三本だけしかありません。かおるが考えているおおきな木は、こんなにすてきな木なのです。
うーんと太くて、お父さんとお母さんと、妹のかよちゃんとかおるとで、やっと抱えられるような木です。登るには梯子を用意しなければなりません。木には、かおるがもぐりこめるくらいのほら穴もあいています。かおるはわくわくして、まるで今、その木の上にいるように、どんどん登っていきます。ほら穴のなかには、かわいいお部屋もあって、すみっこに台所もあります。テーブルやいすもあって、かおるはホットケーキを焼いて食べたりするのです。りすやかけす、やまがらと話もできます。見晴らし台からは、遠くの山が見えて、自動車がカブトムシみたいに小さく見えます。この木は、かおるの木です。
「ぼく、とりに なった みたいだ。」「わーい。」
はる、なつ、あき、ふゆ、かおるのおおきな木の話は、まだまだつづきます。
つぎの日曜日、おとうさんとかおるは ほんとうに まてばしい、という、とてもおおきくなる木をうえました。


   2017年2月9日 佐藤さとるさんが亡くなったというニュースが入りました。88歳でした。あのコロボックルのお話の生みの親の佐藤さん。「コロボックル物語」は日本初のファンタジー小説とも言われました。小さい人のお話は、今まで見たことも聴いたこともないような世界を手に取るように描いていて、新しい物語が出るたびに引き込まれて読んだものです。そして、その佐藤さんの世界を、見事に映像化して描いていたのが村上勉さんの細やかな技法です。この黄金コンビによって、多くの作品が生まれました。植物の生き生きした伸びやかさ、動物たちの毛並みの一本一本に秘めた愛らしさ、主人公の細やかな表情が目に飛び込んできます。大好きな絵本の世界です。

   「おおきな きが ほしい」は、かおる少年の思い描く夢が、絵本の中でページをめくるたびに実現していきます。大きな木のイメージは横開きから縦開きにすることによって、よりリアルに伸びていきます。誰でもが一度は夢見るツリーハウスの生活が、絵本と一緒に手を伸ばしてみると、すぐそこにあるのです。なんて、おおきな木!登ってみたいと、みんなが思ってしまいます。こんな素敵なことはありません。佐藤さんの目線はいつも小さい人へと向けられています。子供たちへの想いの深さが伝わります。

   そして、12日、いつも赤ちゃんの傍にいた、まついのりこさんが82歳で、16日には、あの”うさこちゃん”の生みの親、ディック・ブルーナも89歳で亡くなってしまいました。まついさんの赤ちゃん絵本はシンプルな中にも大事な要素がたくさん詰まっていました。紙芝居作家としても活躍され、「紙芝居文化の会」代表を務められました。紙芝居を通した国際交流にまで押し上げられ、その活動に尽力されました。ブルーナの”うさこちゃん”の目はいつもこちらを見ています。それは、絵本と向き合う子供たちと目線を常に合わすためだと言われています。ブルーナの子どもたちに向けた温かい愛情表現です。あの目線に、どれだけ救われたかわかりません。子どもの本の世界は子供たちに寄り添い続けた、三つの大きな星を失ってしまいました。本当に、本当に哀しいです。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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