学校法人
認定こども園 聖愛幼稚園

〒400-0071
山梨県甲府市羽黒町618(地図
TEL 055-253-7788
mail@seiai.net



赤鬼からの手紙(2016年7月号)



『 あらしのよるに 』

きむらゆういち : 作
あべ弘士 : え
講談社

   今年の夏は、酷暑の夏と言われています。温暖化と言われて久しくなりますが、毎年その暑さは増しているようにも感じます。あたりの気候が厳しくなると、人々の暮らしも、何かしらの我慢が強いられたり、それに伴い人の気持ちまでもが不安にさらされたりします。朝起きて、真っ青な空を見るだけで元気に一日が始まるような気分になったりしますよね。でも大雨や強い風の日などは、外に出るのもちょっと…と考えてしまいます。嵐の日、ましてや真っ暗な闇の中でたったひとりだったらどうしますか?そんな嵐の夜に、初めて出会ったふたりのお話です。そのふたりとは・・・

 ごうごうとたたきつけるような あまつぶのおと。あれくるった あらしのよるに、しろいヤギは やっとのおもいで、ちいさなこやに もぐりこんだ。
ガタン!だれかが こやに はいってくる。ハアハア、という いきづかい、ヤギは みみをそばだてた。コツン ズズ、コツン ズズ― ひづめのおとだ、ヤギにちがいない。
「すごい あらしですね。」「え?まっくらで、ちっとも きがつきやせんで、ハア ハア…あしは くじくし、おいらは さんざんですよ。ふう〜。」
 そう、つえをついて やってきた くろい かげは ヤギではなく オオカミだったのだ。するどい きばをもち、ヤギの にくが だいこうぶつの オオカミ。
「あなたが きてくれて、ほっとしましたよ。」ヤギは あいてが オオカミだとは まだきが つかない。 「そりゃあ、おいらだって あらしのよるに ひとりぼっちじゃ、こころぼそく なっちまいやすよ。」オオカミも あいてが ヤギとは きづいていない。
オオカミがのばした あしが、チョンと ヤギの こしにあたる。「あら、ひづめにしては やわらかいな」ヤギは あたったのは きっと ひざなんだと おもいこむ。
「は、は、は、はくちゅん!」オオカミが くしゃみをした。「だいじょうぶですか?」
「どうやら、はなかぜを ひいちまったらしい。」「わたしもですよ。ぜんぜん においが わからないんです。」「おたがい いま わかるのはこえだけって わけっすよね。」「ハハハ」
こうして、あらしのよる であった ヤギとオオカミは まっくらやみのこやの中で、あいてが だれともわからずに、おたがいのことを はなしつづけた。
「ハハハ、わたしたち、ほんとに よく にてますねえ。」「へへへ、まっくらで かおも みえないっすけど、じつは かおまで にてたりして。」
ぴかっ いなずまがひかり、こやのなかが ひるまのように うつしだされた。
でも、うっかり したむいたヤギ、まぶしくて めをつぶってしまったオオカミ。
ガラガラガラ〜! 「ひゃあ!」 おもわず 二ひきは、しっかりと からだを よせあってしまう。
「そうだ、どうです、こんど てんきの いいひに おしょくじでも。」
「いいっすねえ。あらしで さいあくの よるだと おもっていたんですけど、いい ともだちに であって、こいつは さいこうの よるかも しんねえす。」
 さっきまで あれくるっていた あらしが うそのように、さわやかな かぜが ふわりと ふいた。ふたりが やくそくをした あくるひには いったい なにがおこるのか。

   木村裕一さんの代表作となった「あらしのよるに」シリーズの1作目。賞を取ったり、アニメ化されたり、映画になったり、大きな話題となった作品です。なんだか話題になりすぎて、少し気後れするくらいの気持ちがしていました。

   実は、木村裕一さんは、私が「赤鬼」店主だった頃、紹介をされた方でした。今や教授となられた、山梨学院短期大学の保育科で教鞭をとっておられる”伊藤美輝先生”が、お仲間としての木村裕一さんの造形絵本「がらくたらんど」のお話しをされました。まだ形にもなっていずに、これからだというところにいた木村裕一さんでした。ご紹介してくださった伊藤先生とは、今でもおつき合いが続いています。年賀状のやり取りやら、個展のご連絡などが届くと、頑張っておられるんだなあと、勇気づけられます。その頃の伊藤先生は、名古屋からいらしたばかりで、長い髪を揺らした眼光鋭い、若々しい美術の講師でした。「赤鬼」の大事な常連のお客様としても、たくさんのお話をしたものです。当時から山梨に骨をうずめると言っていた言葉通りに、山梨の美術、保育に関わる欠かせない存在として、重要な活動を担っておられることを嬉しく思っています。

   そんな記憶にあり、まだまだ絵本作家などとは程遠いところにいた木村さんが絵本を手掛けられたということで、「赤鬼」終了後、母となってからも我が子の為にも、何度か木村さんの絵本を手にしました。この絵本もその中の1冊です。絵本としては、思いがけないようなシチュエーションで描かれた内容は、絵本に新たな風を吹き込んだような気がします。絵本作家としては、まだ新進気鋭だった旭山動物園の"あべ弘士"さんとのコンビで、ヤギとオオカミの繊細な気持ちのやりとりが見事に描かれました。世の中的にも、あっという間に話題作となり、今でも愛され続けています。

   もし、昼間だったら、当然の様に食うか食われるかの二者択一でしかないような存在が、シチュエーションが変わるだけで、こんなにも豊かな関係になるという真実は衝撃でした。相手を知るとはどういうことなのか、理解するということはどういうことなのか、友達とは何か、語り合うことの大切さ、様々なことを考えさせられるきっかけになりました。相手が見えていても、見えていないこと、目が開いて見えているはずのことも見えなくなることもあります。その逆もあります。

   さてさて、この後の二匹はどうなっていくのか、気になるところですよね。どうぞシリーズの続きを楽しんでください。

(赤鬼こと山ア祐美子)

戻る



Copyright © 2016, SEIAI Yochien.
本ページと付随するページの内容の一部または全部について聖愛幼稚園の許諾を得ずに、
いかなる方法においても無断で複写、複製する事は禁じられています。
mail@seiai.net