今年は秋の訪れが早いそうです。
そういえば急にあたりの風が冷えてきたような気がします。
あんなに暑い暑いと言っていた日々もすっかり体が忘れてしまったこのごろです。
天気予報士の話では、今年は季節が前倒しになっているとか・・・そろそろ模様替えも終わらせておかねばなりませんね。
富士も綿帽子をかぶり、紅葉の中に一番美しい姿を見せています。
真っ白な姿の富士に変わる頃には、厳しい寒さがやってきます。
そんな冬に備えるには、防寒具の準備が欠かせません。
体を温めるにはまず手先足先、首回りを先に温めると体全体に伝わるそうです。
そうそう、手袋を出しておかなければ・・・。
あたたかそうなてぶくろが雪の中に・・・
森を歩いていたおじいさんはてぶくろを片方落としたまま気づかずに行ってしまいました。
ねずみがかけてきて、てぶくろにもぐりこんでいいました。
「ここでくらすことにしたわ」
そこへ、かえるがはねてきました。「だれ、てぶくろにすんでいるのは?」
「くいしんぼねずみ。あなたは?」「ぴょんぴょんがえるよ。わたしもいれて」
「どうぞ」 ほら、もう二ひきになりした。
つぎに、はしってきたのは、はやあしうさぎ。「ぼくもいれてよ」
「どうぞ」三ひきになりました。
おしゃれぎつねもやってきました。「わたしもいれて」これで四ひき。
はいいろおおかみがやってきて「おれもいれてくれ」「まあ いいでしょう」と五ひき。
いのししがやってきました。「きばもちいのししだ、わたしもいれてくれ」
さあ、こまりました。「どうしても はいってみせる」「それじゃ どうぞ」
もうこれで、六ぴきです。てぶくろはぎゅうぎゅうづめです。
なんと、くまがやってきました。「のっそりぐまだ。わしもいれてくれ」
「とんでもない。まんいんです。しかたがない、ほんのはしっこにしてくださいよ」
これで とうとう七ひきになりました。てぶくろは いまにもはじけそう・・・
森を歩いていたおじいさんはてぶくろが片方ないことにきづき、さがしにもどりました。
さて、てぶくろのみんなはどうなったでしょうか・・・。
冬に読まれる絵本の代表格といってもいいウクライナの民話です。読み聞かせはもとより、劇になったり、映像化されたり、また現在は大型絵本としてもしてたくさんの子どもたちを喜ばせてくれています。ウクライナでは1950年発刊、日本では1965年、50年以上も読み継がれている名作です。
長く読み継がれるには、絵本としての大事な要素があります。
この「てぶくろ」ではページをめくるごとに、動物が増えてきます、そこに大きな期待感が生まれます。
つぎは?つぎは?と子どもたちはわくわくしてページがめくられていくのを待っています。
そして、繰り返しの言葉です。
「どうぞ」の言葉が繰り返され、動物たちの表現とともに、子どもたちは言葉を共有することが出来ます。
それは絵本の中に入っていくための道案内になります。
最後になって、あっと驚くような展開も、子どもたちの想像力を育てます。
こんな手袋の中に熊が入るなんて、考えられないようなことですが、絵本の中では可能です。
何より大事なメッセージは、雪の中で寒さを耐えていた動物たちが手袋のおかげでみんな一緒に温まるというところです。
読んだ後は、びっくりしたり、楽しかったり、みんなの心がほっこりしてきます。
今年の芥川賞を受賞して、文学界を震撼させたお笑い芸人の又吉直樹さんのインタビュー番組がありました。
その中で本を読むことの入口は保育園で読んでもらった絵本であったと話しています。
保育園の先生にも印象深い園児であったらしく、絵本を読んでいてもいろんなおかしな質問をたくさんしてくる園児であったと・・・「ぐりとぐら」も大のお気に入り。
「てぶくろ」では、手袋にだんだん窓ができたりしたのを見て、「あながあいてるやんか、あれではやくにたたへんのやないか?」って、かつての直樹君は先生に聞いたと、ご自身で語られていました。
園児の頃がよみがえるような素敵な笑顔でした。
絵本はそんな風に人を育て、大人になってからも鮮明に記憶されていく存在なのだなと、改めて思いました。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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