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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2015年10月号)



『 ずーっとずっとだいすきだよ 』

ハンス・ウィルヘルム  絵と文
久山 太一  翻訳
評論社
1,296円

   年ごとに不順な天候が続くこの頃です。予想もしないような大雨に見舞われた地域では家を失い、土地を失い、命までもが失われました。人間の力だけではどうにもならないのが自然の驚異です。季節が巡り、日本は実りの秋を迎えます。これは自然からの豊かな贈り物です。いつ失われてしまうかわからないような儚さの中にも確かなものはあります。私たちは、自然と向き合い、関わり合いながら日々の暮らしを保つように先祖から教えられてきました。私たちも自然の一部であって、人間だけが特別でもなく偉いわけでもありません。すべての生き物たちはみんな自然の一部です。命ある営みには必ず限りがあり、私たちも必ずいつかは死んでしまいます。でもそれは悲しいことだけではなく、繋がっていく命の大切さを教えてくれることでもあります。

エルフィーはぼくにとって、世界で一番すばらしい犬。
ぼくとエルフィーは、いっしょに大きくなったけど、エルフィーのほうが、ずっと大きくなるのがはやい。
ぼくはエルフィーのあったかいおなかを、枕にして寝るのがすきだった。お兄さんや妹も、エルフィーがすきだったけど、エルフィーはぼくの犬。
エルフィーがときどき悪さをすると、かぞくは怒ってエルフィーを叱ったけど、叱りながらも、みんなはエルフィーをだいすきだった。
すきならすきと、言ってやればよかったのに、誰もいってやらなかった。
言わなくてもわかると思っていたんだね。

時がたって、ぼくのせはどんどん伸びるあいだに、エルフィーはどんどん太っていった。
エルフィーは寝ていることが多くなり、散歩も嫌がるようになった。心配になって獣医さんに連れていくと、獣医さんが「エルフィーは、としをとったんだよ」って。
階段ものぼれなくなったエルフィー、でもぼくは寝る前に必ず「エルフィー、ずーっと、ずっと だいすきだよ」って言ってやった。
ある朝目をさますと、エルフィーは死んでいた。
いつかぼくも、いつかほかの犬や子猫や金魚もかうだろうけど、なにをかっても毎晩言ってやるんだ、「ずーっと、ずっと、だいすきだよ」って。

   この絵本が教科書に載っているとは、気づきませんでした。光村図書の1年生用になっていたのですね。先ごろ、佐野洋子さんの展覧会に行きましたが、そういえば「おじさんのかさ」も教科書に選択されていたことを思い出しました。

   教科書というのは、教科指導のものではありますが、一度に同時に子どもたちが触れるという意味ではとても大事な出会いの瞬間だと思います。以前、教育委員会で教科書選択という役目をしたことがあります。それぞれの教科に数種類の版元の本が提出されますので、1冊1冊に目を通すだけでも膨大な時間が要ります。当時私は、特に国語の教科書は念入りに時間をかけていたように思います。「おじさんのかさ」は出版されるまでも紆余曲折があり、子供向きではないと言われ出版社に拒まれたこともあったのに、今は教科書にあるというのは時代の流れを感じます。「ずーっと、ずっと、だいすきだよ」も、もしかしたら、以前なら採用されないこともあったかもしれません。テーマの中に「死」があるからです。大人は安易に、そういう言葉を避けてしまうことがあります。例えば、戦争の話などは子供にはしたくないとか、思うお母さんもいます。でも、このお話の中にあるのは「死」ではなくて「命」です。身近な存在が死を迎えることで自分の命を学びます。

   いつもそばにいて、気づかないことも、当たり前だと思うことも、言葉にして初めて伝わるということかもしれません。"目は口程に物を言う"ということわざもあるくらい、言葉にするというのは日本人には苦手なことかもしれませんね。でも、言葉にするということは自分に責任を持つことだと私は感じています。心の中は確かではあるけれど、曖昧でもあります。言葉にして改めて自分で確かめられるのかもしれませんね。

   さあ、声に出してそばにいる人に言ってみましょう、「ずーっと、ずっとだいすきだよ」

(赤鬼こと山ア祐美子)

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