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認定こども園 聖愛幼稚園

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赤鬼からの手紙(2015年6月号)



『 でんでんむしのかなしみ 』


作 / 新美南吉
絵 / かみやしん
大日本図書
1,404円(税込)


   庭の紫陽花が、今年は早々に色づいています。雨の季節がもうやってくるのでしょうか。 紫陽花を見かけると、ふと雨のにおいがしてくるようなきがします。ニュースでは南の地方ではもう、梅雨入りしたとか…。細長く位置する日本では、季節が順序良く廻っていきます。雨に似合う花もあれば、雨の時にこそ顔を出す生き物もいます。雨に似合う生き物といったら、やっぱりカタツムリ。子どものころ、雨が降り出すと路地裏の葉の陰に、湧いて出てくるようにたくさんいました。傘をさして長靴はいて、カタツムリを見つけるのが雨の日の楽しみでした。そういえば、最近はあまり出会っていないような… あなたに周りにこんなカタツムリはいませんか?

いっぴきの でんでんむしが ありました。

あるひ、でんでんむしは たいへんなことに きが つきました。
「わたしの せなかの からには かなしみが いっぱい つまっているのでは ないか」
この かなしみは どうしたら よいのでしょう。

でんでんむしは 「わたしは もう いきていかれない」と おともだちのでんでんむしに はなしました。すると、おともだちは いいました。
「あなたばかりでは ありません。わたしの せなかにも かなしみは いっぱいです」
でんでんむしは じゅんじゅんに おともだちを たずねましたが どの おともだちも
おなじことを いうのです。
とうとう でんでんむしは きがつきました。

「かなしみは だれでも もっているのだ。
わたしばかりではないのだ。
わたしは わたしの かなしみを こらえて いかなきゃならない」


   1935年5月15日制作とあります。いまから80年前にこのようなみずみずしい作品が生まれていました。 日本を代表する童話作家 新美南吉22歳の作品です。代表作「ごんぎつね」は教科書にも取り上げられ、新美南吉の名前を目にとどめた方も多いかと思います。 教職につき29歳の若さで喉頭結核の病で亡くなった南吉は、同じく教師経験があり、37歳で他界した宮沢賢治とともに並べられることもよくあります。"北の賢治・南の南吉"と好対照に言われ、児童文学界で、この二つの巨星は今もその輝きを増しています。

   南吉は愛知県半田市に生まれますが、その幼少時代は4歳の時に生母を失うという悲しみから始まっています。 継母にも慣れず、母の実家にも自分のいる場所がないままに成長していきます。 そして、継母に子どもが生まれると、自分はいらない存在なのではないかという不安で南吉の心はいっぱいになっていきます。 のちにその時の辛かった思いも言葉にして描いています。 南吉の童話は悲しいものが多いという人もいます。 でも、その根底に流れるものは愛情を常に求めていた南吉の姿があります。 自分の生い立ちや生きてきた時間の中で感じた悲しみからも多くのことを学びました。 そして、教師という立場で初めて実現できたのは、人の温かさや、互いにつながることへの喜びがあるということを自ら語る言葉や作品によって、目の前の生徒たちに伝えられたということです。 南吉にとっては、価値ある自分を確かめる大きな幸福であったに違いありません。

   1998年、平成10年、国際児童図書評議会世界大会で、皇后美智子さまがビデオ放映による「子ども時代の読書の思い出」という基調講演を行いました。 その時に、引用して語られたのがこの「でんでんむしのかなしみ」でした。 その後絵本という形でも出版され、より多くの人の手に渡ることになったのです。 2010年、陛下とともに半田市をご訪問された時には、新美南吉記念館にも足を運ばれました。 そして、南吉自筆の原稿を熱心にご覧になったということです。 講演の中で、美智子さまは、小さいころに読んで聞かされた印象から、自らが成長する中で読書の意味合いも変化していくが、このお話はずっと心にあったと語られました。 読書の大切さは、そこにあります。一度読んでおしまいではなく、成長過程の中で自分の読み取ることが変化していくことが読書の醍醐味です。 南吉の作品は50編ほどですが、その作品のすべてがひたむきに生き抜いた南吉の29年間の証のようです。

   でんでんむしは、不安や悲しみを友に話すことで救われていきます。そうか、自分だけじゃないんだ、ともに悲しみにより添うことが出来る、その安堵感は南吉が一番求めていたものではないでしょうか。今年の雨の日、どうか、でんでんむしに出会えますよう。 (紹介した絵本には、ほかの作品も掲載されています、南吉童話の世界に触れてください。)

(赤鬼こと山ア祐美子)


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