学校法人
認定こども園 聖愛幼稚園

〒400-0071
山梨県甲府市羽黒町618(地図
TEL 055-253-7788
mail@seiai.net



赤鬼からの手紙(2015年5月号)



『 たつのこたろう 』

松谷 みよ子 / 文
朝倉 摂 / 絵

講談社
1,728円(税込)


   若葉の緑が輝き、色とりどりの花々も一斉に咲き誇る1年中で一番さわやかな季節です。 日本では、古来から5月5日は「端午の節句」として、男の子の健やかな成長を願う行事が行われてきました。 心待ちにしているゴールデンウィークでは、国民の祝日としての「こどもの日」でもあります。 祝日法2条によれば「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」を趣旨として1948年に制定されました。 子供の成長とともに母を思う日でもあるのです。 不思議な引き合わせのようですが、英国で生まれた「母の日」も5月の第2日曜日です。 風薫る5月は、母と子にとってお互いを思い合う季節なんですね。 この大事な日に「たつのこたろう」の母と子の物語をお届けしましょう。

けわしい山と山のあいだに、石ころだらけのまずしい村がありました。 鬼がやってきては、あばれまわる、すみにくい村でした。 「たつのこたろう」という男の子が ばあさまとくらしておりました。

はたらきものの ばあさまにくらべて、たろうはあそんでいるばかり・・・。 たろうは、村のこどもからは、たつの子、たつの子、まものの子、とはやしたてられていましたが、あるとき、ふえを吹く あや という女の子に出会い、なかよくなりました。 けものたちも あやが大好きでした。たろうには楽しい日がつづきました。

あるよ、ばあさまは たろうにおかあさんのことをはなしてくれました。 たろうのおかさんは、山にしごとにいったまま、どういうわけか、りゅうになってしまった、そして たろうをうんだ。 たろうは ちちのかわりに、おかあさんの目の玉をしゃぶっておおきくなった。 おかあさんは、いまでも きたのみずうみで たろうをまっているかもしれない・・・と。

そんなとき、なかよしの あやが 鬼にさらわれてしまいました。 たろうは てんぐさまから力をもらい、あやをすくい、村であばれる赤おにや黒おにをたいじしました。 たいそうよろこんだふもとの村びとから、たろうとあやは にぎりめしをたんと もらってたべました。 そのおいしさに「え、これがこめのにぎりめし。村にはあわやひえしかない、ばあさまにたべさせたいよ。」 たろうは ぽろぽろ なきました。

たろうは あやに ばあさまをたくして、おかあさんをさがしにいきました。 けわしいやまをこえ、やまいぬにとびかかられ、おそろしいゆき女にとりまかれたとき、白い馬にのったあやが 目の前にいました。 白い馬はふたりをのせて、ふわりと空にとびたちました。 やがて、はるか下に、五しきにかがやく うつくしいみずうみがみえてきました。 「うわあい、おっかさんのみずうみだ。ようし、おら、おっかさんに あったら、このみずうみをもらうんだ。水をながして たんぼにするんだ。いいぞう。」  たろうは、おかあさんに あうことができたのでしょうか・・・・。

   誰でもが知っている「たつのこたろう」は松谷みよこさんの代表作です。 松谷みよ子さんは、2月28日、89歳で旅立たれました。 訃報のお知らせによると老衰とのことでした。 神様はこのような形で、天寿を全うされる道を松谷さんにお与えになりました。 先月、今江祥智さんの旅立ちをお伝えしたばかりですが、2015年のはじめに絵本界のふたつの巨星が相次いで、消えてしまいました。

   松谷さんの作品というと、「いないいないばあ」をはじめとする赤ちゃん絵本がすぐに浮かびます。 「児童書専門店 赤鬼」時代でも、最も売れた本です。 きっと、現在も日本中どの書店でも売り上げNo.1でしょう。 そして長い間大人気の「モモちゃんシリーズ」、多くの昔話の再話、また「まちんと」などにも代表される戦争の悲惨さを描いたものなど、多岐にわたっています。 でも、その中に流れているのはいつも親子の情愛であり、ことに母の子に対する思いの深さです。 「たつのこたろう」は様々な昔話を題材とし、松谷さんの視点で改めて描かれたものです。 たろうの母への思慕は、やがて多くの人々を救うことにもつながっていきます。 龍になってしまった母の悲しさはどこから来るのか、たろうは学んでいきます。 龍の姿の母は、そんな風に成長した たろうを誇らしく思ったに違いありません。

   松谷みよ子さんが、私たちに残してくださった多くのお話を心にとめ、子どもたちを見守っていかれたらと思います。

(赤鬼こと山ア祐美子)

戻る



Copyright © 2014, SEIAI Yochien.
本ページと付随するページの内容の一部または全部について聖愛幼稚園の許諾を得ずに、
いかなる方法においても無断で複写、複製する事は禁じられています。
mail@seiai.net