入園式や入学式、入社式、子どもたちだけでなく、新社会人も動き始めるこの季節。
たくさんの花々や木々の緑も門出を祝福するようにいっせいに新たな芽をだし、その輝きを増しています。
”新しい”という言葉は、これから始まるわくわく感とともに、「初めが肝心」のような緊張感と責任感も伴うような気がします。
ここを目指すために厳しい寒さも越えて、準備をしてきたことが実を結び、形になっていく春。
想像もつかないような展開が待ち受けているかもしれません。
さあ、新しい形をここから作っていきましょう!
とんと むかし。それはそれは、貧しいじいさまとばあさまがおった。おふろなんぞもめったには入れなかった。だから、ふたりともからだじゅうがこんび(あか)だらけ。
あるひ、やっとおふろにいれてもらえると、こんびがでるわでるわ。きのこのようにぽろり、ぽろりととれた。ふたりは、それをかきあつめて、小さな人形をつくった。
「こんびたろう」となづけ、ほんとうのこどものように、どっさりとまんまをくわしてやっった。なんねんもすぎたころ、まんまくってねてばかりのこんびたろうが、とつぜん、くちをきいた。「おらに百かんめのかなぼうをつくってけろ。」じいさまは むりにむりをして、たのんでやった。こんびたろうは、できあがったかなぼうをつえに、えいえいおうとたちあがり、やあああっとせのびした。すると、むっくらとせがのび、みあげるような でかいわかものになった。
かなぼうを だいこんみたいにふりまわすのをみたじいさまは「こんびたろうでのうて、ちからたろうじゃ」とさけんだ。ちからたろうは、「ああ おらもそのほうがすきだ。じぶんのちからがどれだけやくだつものか ためしてみてえ」と、まちをめざして のっしんじゃが、のっしんじゃがとすすんでいった。とちゅうで、にほんいちのちからもちだという みどうっこたろうといしこたろうにであった。ところがふたりとも、ちからたろうのつよさにまけて、いっしょにたびについていくことにした。
こんどは3人でのっしんじゃが、のっしんじゃがずっしんといくと とうとう大きなまちについた。山の上にはおおきな城もあるのに、人っ子ひとりみあたらない。3人がくびをかしげながらまちじゅうをみまわると、むすめがひとりないていた。きくと、「ばけものが年に一ど、おんなをひとりずつさろうていきます。じひびきたて、あめかぜふかせて、むらの田はたをあらします。おさむらいしゅうがたばになっても かないません、ことしは わたしのばん。」これをきいた3にんは「そんなことか。おらたち3人でたいじしてやっから、なくのをやめて いえにいれてくろ」と。
さて、ちからたろう、みどうっこたろう、いしこたろうの3人は、ばけものをたいじすることができたのでしょうか・・・・
今年3月20日、今江祥智さんがなくなりました。83歳だったということでした。
訃報に触れて、そんなお年になられていたのだと思い返しました。私が「赤鬼」店主のころ、講演会を2回開いたことがあります。
「兎の眼」の灰谷健次郎さん、もうひとりが今江祥智さんでした。
今江さんは店が見たいとおっしゃって、わざわざ立ち寄ってくださいました。
トレードマークの黒づくめの姿で、熊さんみたいな体を揺らしながら店内の書棚をくまなく見まわしておられました。
その時の物腰の柔らかな関西弁が今も耳に残っています。
今江さんの作品はどれも言葉をとても大事になさっていて、その言い回しやリズムが豊かに物語を確かなものに導いてくれます。
この「ちからたろう」はあまりにも有名な話ですが、今江さんにとっても、何度も向かわれた作品です。
小学校国語の教科書に採用される折に、何年もかけて推敲を重ねて新敲が出来上がったそうです。
そして、民話という日本独特の世界を子どもたちに伝えてくれました。
民話は口承で伝えられてきたお話です。
同じようなお話が場所を変えて生まれるようなこともあります。
口承である民話を絵本の形にして伝えるには、言葉のリズムは大切なことです。
今江さんは常に様々な工夫なさっています、それが作品の楽しさに生まれ変わります。
「ちからたろう」のすごさは、”あか”から生まれたということです。
じいさまとばあさまにはなにもない、”あか”しかない、人が汚い物と捨ててしまうものから生き生きとした生命が生まれる、無から有をうむことにもつながるような気がします。
民話というものは、ありえないようなお話がどんどん展開されていく中で、人の生きる力や真実のような事柄がその中にちりばめられています。
そして、今回その言葉のすべてを形にしているのが田島征三さんの力強い画力です。
この二人のコンビ作品は絵本界の王道といってもいいくらいの場所にあります。
今江さんご自身も絶賛の田島さんの絵です。
今江さんが愛してやまなかったこの「ちからたろう」を届けることで、今江さんのご冥福を祈りたいと思います。
今江さん、たくさんの作品を私たちに送ってくださってありがとうございました。
一つ一つ大切に伝えていきます。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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