学校法人 聖愛幼稚園
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赤鬼からの手紙(2014年3月号)



『 えんぴつびな 』


長崎源之助 / 作
長谷川知子 / 絵
金の星社 / 刊
1,365円


   未曾有の大雪に見舞われた山梨、TVから流れる映像にただただ驚くばかりでした。1週間も孤立した方々が、寒さを凌ぐ知恵などを柔らかな口調で語られている様子に触れて、ほっとするような切ないような気持ちになりました。天災には人の力は誰もが無力ですが、都会では口々に被害の矛先を探してしまいます。"なぜ電車がもっと速く動かないんだ、これじゃあ間に合わないじゃないか、転んだのは早く雪かきしてくれなかったせいだ・・・"自然に近い暮らしをしている人々は、誰のせいにもしていません。電気が止まっても、水道が止まっても、皆で工夫して寄り添って暮らしていきます。全てが揃うことが当たり前ではありません。三月三日のお雛祭りにも、様々な形がある事をお伝えしましょう。

子どもの頃に戦争があって、家が空襲で焼けてしまったので、いなかに引っ越したときのことでした。 新しい学校には、シンペイちゃんといういたずらっこがいました。はじめてのひ、「これ、やるよ」と緑色のものを、机のうえにおきました。 なんだろうと顔を近づけたとたん、飛びついてきたのでわたしはすごくびっくりして、ふるえがとまりませんでした。 それはカエルでした。 シンペイちゃんは、いじわるではなく歓迎のつもりだったのです。 みんなになじめないでいるわたしを、なにかとかばってくれました。 シンペイちゃんは、いたずらして廊下に立たされても、どこかに行ってしまいます。 先生が心配していると、そのうちポットをどんぐりでいっぱいにして帰ってきました。

そんなシンペイちゃんがあるとき、「いいもん、やるよ」と私の目の前ににぎりこぶしをつきだしました。 掌には、小さな鉛筆がふたつのっていました。 その鉛筆には、顔が書いてありました。 「まあ!」「かわいいだろう。えんぴつのおひなさまだぞ。」わたしは、うれしくてえんぴつのおひなさまを自分の掌にのせて眺めました。 「おめえんち、くうしゅうでやけちゃったんだってな。おひなさまも、なくなっちゃったんだろ。だから、おれ、つくってやったんだ。三がつ三かに、かざるといいよ。」 「ありがとう」「あした、3人かんじょも作ってきてやるよ」「ほんと?うれしい!」 シンペイちゃんと話したのはその時が最後になってしまいました。シンペイちゃんは・・・・・

   3月春の訪れを告げるはずの絵本としては、とても悲しい絵本です。以前からこの絵本を手にするたびに、いつお伝えしようかと思っていました。戦争の悲惨さを語る内容ではありますが、”えんぴつびな”という特別な日を大切に思うことにしました。

   誰もが一度は、こんな鉛筆を作った事があるのではないでしょうか。私が小学生の頃、鉛筆を削るのがとても上手な先生がいました。肥後守というナイフで削る先生の指先を眺めていたものです。芯も長く長く細く細くとがっていてとてもきれいだったのを覚えています。先生のまねをしては一生懸命削りました。そして、やがてちびた鉛筆になると、友だちと並べて遊んだ思い出もあります。大事な大事な鉛筆でした。シンペイちゃんはいたずらで、勉強もできそうではないけれど、きっと手先の器用な男の子だったのでしょう。女の子を何とか喜ばせようと、ちびた鉛筆をお雛様にしました。作っているときのシンペイちゃんの得意そうな笑顔が目に浮かびます。ほんとなら、三人官女も五人囃子も揃ったに違いありません。豪華な段飾りのお雛様も素敵ですが、何もなくなっても、1本の鉛筆があたたかな春を呼んでくれるような気がします。

(赤鬼こと山ア祐美子)


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