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赤鬼からの手紙(2014年2月号)



『 鬼の首引き 』

文 岩城 範枝
絵 井上 洋介


福音館書店
1,260円

   寒い寒い日々が続いています。日本中で予報通りの厳しさとなっているところも多く、雪国ではお年寄りにとっても経験のない雪深さだとの声も聞かれます。どんなに対策をしていても、屋根の雪下ろしによる転落事故が少なからずニュースになるのが現状です。そんな中で、若者たちがグループで雪下ろし作業ボランティアを始めているそうです。関東からも沢山の若者たちが雪国に向かっています。そして、作業を通して、地域の方々との交流も生まれています。出会うはずのなかった交わりが、作業への感謝の想いだけでなく、互いの心の中も温かくしてくれるような気がします。さて、ひょんな出会いというのは人間社会の中だけではなさそうです、でもこれは、ちょっと怖くて愉しい出会いのお話です。

 むかしむかし、力もちの若者がみやこにのぼろうと旅に出た。と、そこへぬっと現れたのが、おおきな鬼。鬼は「わかくてうまそうだ」と若者を頭から食おうとしたけれど、ふと、娘のことが頭に浮かんだ。娘はまだ、人を食ったことがない。「ひとを食う、お食い初めじゃ」と鬼は娘をよんだ。娘はととさまにはやされて、「手から食おうか、足から食おうか、それとも頭から?」と歌いながら、若者に近づいた。食べられたらかなわんと、若者はあの手この手で、何とか知恵を絞った。娘を扇でたたいたり、大声を出して脅したり・・・鬼のととさまは、まんまと若者のいいように従ってしまうのだった。
 鬼を言いくるめた若者は、こんどは「わるいこともしないのに、ただ食われるのはいやだ。ちからくらべをして、負けたら食われよう」と、しかもお姫様との勝負することにした。腕相撲、足相撲、力もちの若者相手に勝てるわけがない娘は泣き出してしまった。泣きだした娘を不憫に思い、何とか勝たせようと、ととさまは「ほほーい、ほほーい、うちの娘が負けそうだ」と、なかまをよんだ。すると鬼のなかまがぞろぞろとあらわれた。こんどは本当の力比べだと、若者と鬼の首引きが始まった。若者と鬼たちは、首にひもをかけてむきあった。「えいさら えいさら まけるな それひけ えいさらさ!」掛け声かけながら、鬼たちはひもをひっぱった。若者はまっかなかおでふんばる。
 さてさて、首引き勝負はどうなったでしょうか・・・・?

   2月は鬼の季節です。今年はちょっと怖くて、ちょっと面白くて、笑ってしまいそうなお話です。それもそのはず、お話のもととなったのは「狂言」の演目からの作品です。作者の岩城範枝さんと編集者が狂言の『首引き』を観たことがきっかけで絵本が生まれたそうです。絵本の誕生には、こんなひょんな出会いもあるものなのですね。岩城さんは、東京神田の生まれ、祖母、母と三代続くチャキチャキの江戸っ子。子どものころから、能、歌舞伎や狂言などの舞台に慣れ親しんで育ったということです。絵本を眺めながら、幼いころの経験がこういう形になって表現されるって素敵だなと思いました。井上洋介さんの絵はまるで鳥獣戯画の絵巻物のようで、今にも鬼が飛び出してきそうな勢いがあります。

   何といっても鬼の世界にも”お食い初めがあるなんて・・・でも、鬼がより身近になりますよね。鬼に食われまいとする若者の画策がテンポよく進み、その言葉に翻弄されていく鬼の素直さが、どことなく微笑ましくさえあります。娘の愛らしさに加えて、子煩悩の父鬼との親子関係が羨ましいくらいです。娘がかわいくて仕方がない父鬼は丁寧に愛情深く娘を育んでいます。最後に沢山の鬼たちと勝負することになってしまった若者は、りりしく逞しいけれどかなりの知恵者でもあります。そんな若者と鬼との駆け引き、そしてこの首引きの場面をぜひ、狂言の舞台で観たくなりました。みなさんもいかがですか?

(赤鬼こと山ア祐美子)

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