学校法人 聖愛幼稚園
〒400-0071
山梨県甲府市羽黒町618(地図
TEL 055-253-7788
mail@seiai.net



赤鬼からの手紙(2010年7月号)



『ふとんかいすいよく』

山下明生 / 作
渡辺洋二 / 絵
あかね書房 / 発行

1,155円(税込)

   長雨の空模様を眺めながら、いつになったら止むかしら、と思う時間をじっと待つと、一瞬のうちに、割れた雲間から抜けるような青い空を、神様はちゃんと与えて下さいます。そんな光景に出くわすと、新しい季節がめぐってくる気持ちがして自然に体も動いてきます。体を鍛えるのには、いろんな方法がありますが、水泳はその代表格ですね。スイミングスクールに通っているお友達も沢山いるでしょう。せっかく、泳げるようになったのに、耳の病気になってしまった男の子、この夏は海でもプールでも泳ぐことができません。もっと速く泳げるようになりたいのに・・・ところが、泳ぎを教えてくれると、お父さんが・・・

― あんまり さびしい ものだから バスに のって せんとうへ いった
しらない 町の しらない 人と いっしょに ゆれていた ―
これは、しだよ。だれが つくったかと いうと、うちの とうちゃんが つくったんだ。
この しを よんだとき、かあちゃんは、まゆを 八のじにした。
「なんだか あわれっぽいわねえ。だいの おとなが、さびしいだなんて。」
「そこが、この しの いいところさ。」とうちゃんは、はなの あなを てんじょうに むけて、 たばこの けむりを はいた。
・・・ぼくの とうちゃんて、ちょっと へんでしょう。きのうの 土よう日の ことだった。・・
「とうちゃん、きょうも さびしいかい。」ぼくは、とうちゃんの せなかに きいた。
「ほら、こないだ しを かいたじゃない。さびしくて あわれっぽいやつ。」
「いや、きょうは だいじょうぶだ。カズぼうこそ さみしかったんだろう。」
「さみしくなんか ないよ。ただ くやしいだけさ。ぼく、ことしは およげないんだもの。」
とうちゃんは へんなことを いいだした。
「カズくん、きょ年の かいすいパンツ 出してこいよ。これから すいえいの とっくんだ。」
ぼくは かいすいパンツをはいた。とうちゃんは、六じょうの へや いちめんに ふとんをしいた。
「いいかい。ここは、ふとんかいすいよくじょうだ。」・・・さて、とうちゃんのとっくんは・・・

   この季節には、どうしてもお伝えしたい本の一冊です。読み物ではありますが、渡辺洋二さんの挿絵が、物語をなお一層温かなものにしています。1977年の初版から30年以上もの間、読み継がれている作品です。山下明生さんの描く世界には、海にちなんだお話が沢山あります。幼年時代を瀬戸内海能美島で過ごされた経験から育まれたものでしょう。今年は泳げないカズくん…私の子供も中耳炎治療のために、耳鼻科通いの辛い日々を過ごしましたので、カズくんの気持ちはよくわかります。自分が変われるものなら、と胸を痛めたものでした。この本に出会って、わざわざ青いシーツを探したり、海賊の衣装を考えたりしながら"ふとんのうみ"で、一年中一緒に泳ぎました。子供の感ずる悔しさや寂しさと正面から向き合い、気持ちに寄り添うには、親は一人ひとりに合わせた様々な知恵をも駆使せねばならない事を学びました。豊かな引き出しを持つ親になりたいものです。                  

(赤鬼こと山ア祐美子)


戻る



Copyright © 2010, SEIAI Yochien.
本ページと付随するページの内容の一部または全部について聖愛幼稚園の許諾を得ずに、
いかなる方法においても無断で複写、複製する事は禁じられています。
mail@seiai.net