学校法人 聖愛幼稚園
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赤鬼からの手紙(2010年5月号)



『はじめてのおつかい』

筒井 頼子 / 作

林 明子 / 絵

福音館 / 発行

840円(税込)

   今年は天候が不順で、あちこちにその影響が出ているようです。野菜やお花を育てている農家の方は、大変な苦労をされているのに、「自然の力は人間の力ではどうにもならない」と穏やかに話されているのが印象的でした。美味しい食べ物をいただけたり、季節ごとの花々に出会えたり出来るのは、そういう方々が頑張って下さっているおかげだと実感します。そんな方々から届けられた品々がお店に並んで、やっと私たちは買い物ができます。今回は、初めての買い物をする女の子のお話です、さて、ちゃんとできたでしょうか・・・

あるひ、ままが いいました。
「みいちゃん、ひとりで おつかいできるかしら」
「ひとりで!」
みいちゃんは、とびあがりました。
いままで、ひとりで でかけたことなんか、いちども なかったのです。
「あかちゃんの ぎゅうにゅうが ほしいんだけど、まま ちょっと いそがしいの。ひとりで かってこられる?」
「うん! みいちゃん、もう いつつだもん」
・・・みいちゃんは、ままに ひゃくえんだまを ふたつ もらって、
てに しっかり にぎりしめ、うちを でました。
・・・・そこへ、ともだちの ともちゃんが きました。
「どこへ いくの?」
「おつかい。ままに ぎゅうにゅうを たのまれたの」
「へえ!」 ともちゃんは、めを まるくして、いってしまいました。
さかに きました。・・ 「かけあし どん!」みいちゃんが、ひとりで ごうれいを かけて、
かけだしたとたん、すってーん!
あんまり いそいだので、いしに つまずいて ころんでしまいました。
ひゃくえんだまが ころころ、ころがっていきます、
あしも ても じんじん いたみます。
・・・・おかねは みつかったでしょうか、・・・・・がんばれ、みいちゃん!


   この絵本ほど、親しまれている絵本はないかもしれません。何といっても、表紙の笑顔に目が釘付けになります。林明子さんの描く子供たちの世界は、何気ない身近な日常でありながら、ページをめくるたびに、ハッと新しい発見があってわくわくします。この絵本の中にも、パズルのように沢山の仕掛けが隠れています。 子供たちにとって、初めての体験は忘れられない出来事です。特に"おつかい"は、社会への入口とも言えます。みいちゃんが、顔を真っ赤にして『ぎゅうにゅう くださあい!』と叫ぶ場面が、その大事なカギになっています。この絵本から30数年、あたりはスーパーやコンビニばかりになって、言葉を交わさなくても、買い物ができてしまうようになりました。 "おつかい"という、子供たちの成長にとって大切な自己表現の機会も失われてきているように感じます。みいちゃんの後ろ姿を、心配しながらも、温かいまなざしで、ままは見守っています。わが子への信頼と期待と、それを確かなものとして、子供を待つ母の姿が表現されています。親はとかく、先回りをして子供たち自身の持つ能力を奪ってしまうことがあります。 子育ては【待つこと】でもあることを、ままから教えられます。裏表紙のままも、とても素敵です。                  

(赤鬼こと山ア祐美子)


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