学校法人 聖愛幼稚園
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赤鬼からの手紙(2009年8月号)



『星砂のぼうや』

灰谷健次郎 / 作

坪谷 令子 / 絵

童心社 / 発行

1,575円(税込)

   皆さんは、「星砂」を知っていますか? 実際には見たことがなくても、「星砂」という言葉だけでも、目にしたり、 耳にしたりしている人はたくさんいるかもしれませんね。 でも、「星砂」が生き物だってことは、知っているでしょうか。 本当に美しい海にしか見られないといわれている「星砂」。 その「星砂」のおかあさんが、ぼうやと話をしています。おかあさんの 声が波の間から聞こえてきました。

「どこまで いくの?」星砂のぼうやは ホンダワラにきいた。 ホンダワラは「むあああーん」と、のんびりのっそり いった。
「ぼく、おうちへかえりたいよう」ぼうやは、こんどは 星砂のおかあさんにいった。 「手をはなしちゃだめ。しっかり、ホンダワラさんに つかまっていなさい」
サザナミヤッコのおねえさんは ゆめみるような かおをして、るろりんるろりんと、 およいでいるにちがいない。アカホシサンゴガニちゃんといっしょにおちちをのむこと、 クマノミちゃんとのけんかのこと、チョウチョウウオくんとオオイソバナのところでかくれんぼしたこと、 ぼうやはつぎつぎに友だちのことを口にした。
「おまえは友だちがおおくて、しあわせだね」と、おかあさんはいった。 しずかな わんで ぼうやは ちょっぴりねむった。
「エイサ、エイサ」とカヌーをこぐこえがきこえた。 「ここはうつくしい海だから、にんげんのこどもたちがたくさんあつまるの、 平和で、とてもすばらしいことだわ」とおかあさんはいった。「ヘイワって、なに?」ぼうやはたずねた。 「じぶんのことに むちゅうになることよ」そうか、じぶんのことにむちゅうになることか、 「ぼくの友だちは、みんなヘイワだね」星砂のおかあさんは、にこっとわらって うなずいた。
・・・「センソウって、なに?」ぼうやはたずねた。 「人がたくさん死ぬことだよ。戦争で死ぬのは人だけじゃないよ、ぼうや」
このあとも星砂のおかあさんは、 この海でおきたかなしいできごとを、ぼうやにはなしました。どんなことがあったのでしょうか。

   やっと、灰谷さんの絵本を紹介することができました。『赤鬼』時代、灰谷さんの講演会を開催しました。 当時とてもお忙しい方でしたが、小さな書店の望みを快く引き受けて下さいました。 甲府駅前の蕎麦屋さんでお昼をご一緒した時、もの静かな声で話される、優しいお人柄に触れて 涙が零れました。私のお店にも立ち寄られて、書棚をじっと眺めておられた姿を今でも思い出します。 灰谷さんの訃報を耳にした時は、胸がつぶれる思いでした。残念でなりません。この絵本は、渡嘉敷島の生活から の作品です。前半は海の生き物たちがたくさん登場して、海の豊かさや不思議さが生き生きと描かれています。 後半は、星砂のお母さんの言葉を通して、平和の意味合いや命の大切さが伝わってきます。 扉に「私は、いつも人間が主人公で、擬人法で物語を作ったことは一度もありません。そんなわけで、 この作品は私にとって記念碑的な童話ということになります」とあります。坪谷さんの絵が、灰谷さんの 世界をより際立たせて、美しい海と星砂がどこまでも広がっています。
                 

(赤鬼こと山ア祐美子)


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