1年でいちばん寒さの厳しい季節がやってきます。あたりの山々が雪化粧し始め、空気がしんしん冷え込んでくると、なんだか落ち着かない気分になってきます。やっぱり2月は、どうしても鬼たちのことを思わずにはいられません。今年も忘れないで、ちゃんと会いに来てくれるでしょうか・・・
どこの山か、わかりません。その山のがけのところに、家が一けんたっていました。
そこには、わかい赤おにが、たったひとりで、すまっていました。その赤おには、
ほかのおにとは、ちがう気もちをもっていました。
「わたしは、おにには生まれてきたが、おにどものためになるなら、できるだけ、
よいことばかりをしてみたい。いや、そのうえに、できることなら、人間たちのなかまになって、
なかよくくらしていきたいな。」
『ココロノ ヤサシイ オニノウチデス ドナタデモ オイデ クダサイ
オイシイ オカシガ ゴザイマス オチャモ ワカシテ ゴザイマス』
赤おには、こんな木のたてふだを立てました。ふたりのきこりがたてふだを読みました。
ところが、戸口からのぞくだけで、しりごみして山をくだってしましいました。
赤おには、どんなに毎日まっていても、だれもあそびにはきはしまい、いまいましいと、
たてふだをひきぬき、こわしてしまいました。そこへひょっこりと、青おにがやってきました。
赤おには、どうして、じぶんが、そんなにはらをたてているのか、話をしました。
青おには、
「そんなことなら、わけなく、らちがあくんだよ。・・・なにか、
ひとつの、めぼしいことをやりとげるには、きっとどこかで、いたい思いか、
そんをしなくちゃならないさ、だれかが、ぎせいに、身がわりになるのでなくちゃ、
できないさ。」
なんとなく、ものがなしげな目つきをみせて、青おには、でも、あっさりといいました。・・・さて、青おには、なにをしようというのでしょう・・
30年前、児童書専門店【赤鬼】の店先には『ココロノヤサシイオニノウチデス・・』と
立て札が立ててありました。書店を開こうとした時、【赤鬼】にしようと心に決めていました。それは、
この赤さんのように、子供も大人も誰でも自由に来てほしいとの思いからでした。
絵本やこどもの本には、すべてのものを繋ぐ大きな力があります。どんな絵本の中にも、
相手を思いやる気持ちが溢れています。相手というのは人ばかりではなく、動植物や、
あらゆる世界のすべてをさします。私は、書店【赤鬼】がみんなを繋ぐ場所になって
ほしいと思いました。短い期間でしたが、【赤鬼】を通して沢山のつながりができました。
私にとって「泣いた赤おに」は生涯に一冊の本です。浜田廣介さんの原文全文を載せた、
梶山俊夫さん挿絵の素晴らしい絵本です。当時はなかったこの絵本に、新たに
出会うことができました。赤さんと青さんに初めて出会った時のように、
今もワクワクしています。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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