この世に光があらわれるように、始まりはいつもしいーんとしています。
新しい年の幕開けは静かに、ゆっくりと、そしてあたたかくページを開きましょう。
今年はどんな1年になるのか、ワクワクしてくる気持ちがだんだん湧いてきます。
どんな楽しい出会いが私たちを待っているでしょう。
・・・いちめんのまっ白な雪の中、小さな男の子と女の子が子ぎつねに出会います。
きつねは人をだますもの?本当に?!二人は大丈夫でしょうか・・・そうっと、
後からついて行ってみましょう。キックキックトントン・・・
「かた雪かんこ、しみ雪しんこ。」
四郎とかん子とは小さな雪ぐつをはいてキックキック、野原にでました。こんなおもしろい日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けないきびの畑の中でも、すすきでいっぱいだった野原の上でも、すきなほうへどこまででも行けるのです。
「しみ雪しんしん、かた雪かんかん。」といいながら、キシリキシリ雪をふんで白いきつねの子がでてきました。「四郎はしんこ、かん子はかんこ、きびのだんごをおれやろか。」と小ぎつね、「きつねこんこんきつねの子、きつねのだんごは兎のくそ。」とかん子。小ぎつね紺三郎がわらっていいました。「いいえ、けっしてそんなことはありません。・・・わたしらは、ぜんたいいままで人をだますなんて、あんまりむじつの罪をきせられていたのです。」四郎がおどろいてずねました。「そいじゃ、きつねがひとをだますなんてうそかしら。」紺三郎がねっしんにいいました。「うそですとも。けだしもっともひどいうそです。・・・」
こんなやり取りの後、二人は、きつね小学校の幻燈会に招待されました。かわいらしいきつねの女の子がきびだんごをのせたおさらを二つ持ってきました。きつねの学校生徒が二人のほうを向いて「食うだろうか。ね、食うだろうか。」なんてひそひそ話し合っているのです。すると四郎は決心していいました。さて、四郎はどんな決心をしたのでしょう・・・
宮沢賢治の代表作です。1969年に絵本として出版されました。その後も様々な作品がありますが、私はこの堀内誠一さんの挿絵が一番好きです。堀内さんの描く「雪わたり」の世界では雪国のくらしから、四郎とかん子の性格や小ぎつねの秘めた思いにいたるまで、手に取るように伝わります。キックキックトントンという、いかにも賢治らしいリズムが画面の中から聞こえてきそうです。このお話の中に語られているのは、『信ずる』ということです。ただ、何でも闇雲に信じればいい、ということではありません。『信ずる』ことができるかどうかを自分が考え、選び、決断するということの大切さです。そして、こうして互いに得られた『信じあう世界』は雪渡りをした時にこそ見られる世界のように美しいのだと語っています。私が賢治の作品に出合ったのも幼稚園の頃でした。きっと母が読んでくれたのでしょう。賢治のメッセージは、その頃からずっと私の心に住み続けています。
(赤鬼こと山ア祐美子)
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