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書き下ろし連載94
もう一度生まれる
ヨハネ福音書3章1〜12節

細井保路

   イエスさまの時代のイスラエルはローマ帝国の支配下にはありましたが、最高法院という議会があって、ある程度の自治権を守っていたようです。 その議員の一人に、ニコデモという人がいました。彼は、イエスさまのことばに惹かれて、ある夜、イエスさまのもとを訪ねます。 そこでイエスさまは、「人は新たに生れなければならない」と教えました。 ニコデモは、「もう一度母親のお腹に戻って生れ直すことはできません」と答えます。

   もちろん、私たちは生まれ変わることなどできません。 イエスさまがおっしゃったのは、初心に帰らなければ、どんどん人の道からそれていってしまうということなのです。

   わが子が生まれてきたときに、親ならば、「この子が幸せになるように」と心から願ったことでしょう。 これこそが、人がこの世に生まれてくる時に与えられているメッセージなのです。 「誰もが幸せになること」は、一人の赤ちゃんが生まれる度に、この世界に向って発信される根源的なメッセージであると言ってよいと思います。 しかし、今の自分の心の状態を考えてみるならば、「出会う人すべての幸せを願う」ような気持ちからほど遠いことに気づき愕然とするはずです。 恨みや憎しみ嫌悪の感情がいつの間にか蓄積し、人を蹴落としてでも進もうとする気持ちが生まれ、自分の幸せを守るだけで精一杯になり、そんな自分を正当化することを考えるようになっているのです。

   イエスさまは、そんな自分を反省せよとか、自己嫌悪に陥ることを求めているのではなく、むしろ、そういう自分に気づいたなら、もう一度生まれた時の状態に戻ればよいと言っているのです。 しかもそれは決して難しいことではなくて、「そうだ大事なメッセージを取り戻そう」と思った瞬間に実現するものなのです。 「みんなが幸せになること」が神の思いであるならば、その神の思いに立ち帰ることこそが、本当の私の幸せなのではないでしょうか。


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