学校法人 聖愛幼稚園
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書き下ろし連載33
回復
ルカ福音書17章11−19節

細井保路
                

   10人の病人が、村の外れでイエスさまに出会います。彼らは、伝染を恐れた家族からも捨てられ、身を寄せ合っていたのです。助けを求める彼らに対し、イエスさまは、「必ず治るから、祭司に体を見せにいきなさい。」と促します。当時は、祭司が病の回復の証明をしていたのです。つまり、「大丈夫、あなたたちを排除したその社会に戻りなさい。」とおっしゃっていることになります。

   回復の保証もないまま、自分たちを追い出した所に戻るのは勇気のいることです。また追い返されるかもしれない。自分たちを抹殺した相手に、昔と同じような気持ちでは再会できないかもしれない。しかし、彼らは、なつかしい我が家へ戻っていきました。そして、その途中で病は癒されるのです。

   聖書に出てくる病気の回復の奇跡は、素直に信じることはできないかもしれません。しかし、このエピソードは、とても大切なことに気づかせてくれます。癒された10人のうち、たった1人だけが、お礼を言うために戻ってくるのです。

   10人の病人のうち、感謝の心を取り戻したのは、たった1人でした。でも、考えてみれば、この世に生を受け、理不尽に人から排斥され続けたら、感謝などできなくて当たり前かもしれません。お礼を言いに戻ってきた人は、病気になる以前に、温かい家族の愛情に包まれて育っていたのかもしれません。

   病気をはじめ、様々な困難にぶつかったとき、「回復」という言葉を思い起こしましょう。壊れてしまった現実は変えられなくても、どんな苦しみも、必ずもっと深い豊かな「人間性の回復」のチャンスなのだということを。


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