荒井良二さんが絵を描いている「森の絵本」(2001年講談社刊)という詩の本があります。
詩の作者は長田弘さん、私の大好きな詩人です。「きみにとって大切なものは何?」と
問いかける詩です。
その詩の中に、「おおきな木は じぶんよりおおきな影を つくります。」という
フレーズがでてきます。これはとても深い言葉です。大きな木はそれを見上げるだけでも
心が落ち着くものですが、その木の下には、陽の光に照らされて、実際の木よりももっと
大きく伸びた影をつくるのです。1本の木の存在は、陽の光や、周囲の空間や、地球の歴史まで
も背負って立っているのです。そして、木の周辺のそれらすべてのものも含めて、
その木の存在があるのです。
そのことは、私の心を広く大きくしてくれます。私は、誤解されたり
悩んだりして自分の狭い心の中に閉じこもっている必要はなくて、
周囲に美しい花が咲き乱れていれば、それも私を作り上げている一部であり、
遠くに神々しい山があれば、それも私を作り上げている一部なのです。
もちろん私のそばに、あるいは遠くにでも、優しい味方がいるなら、
その人たちの優しさも私の一部なのです。
イエスさまが、古い言葉から引用した有名な句があります。
「人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる」
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有名な言葉なので、どこかで聞いたことがあると思います。日々のパンを得るために、人はあくせく働いています。とりあえずの欲求を満たすことで、精一杯になってしまいがちです。だからこそ、私を包んでいる大きなもの、人も環境も歴史もひっくるめて私なのだという感覚を、ときどき思い出しましょう。
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