学校法人 聖愛幼稚園
〒400-0071
山梨県甲府市羽黒町618
TEL 055-253-7788
mail@seiai.net



書き下ろし連載六十
風林火山

新堀邦司
                
あなたがたの上に聖霊が降ると、あなたがたは力を受ける。
(使徒言行録一章八節)

   今年のNHK大河ドラマは『風林火山』です。だいぶ昔にも 『風林火山』は大河ドラマで放映されましたが、前回と違うのは 主人公が武田信玄ではなく、軍師の山本勘助になっていることです。 私は日曜日の夜には『風林火山』を見るのを楽しみにしています。 そんな事情があって、一度『風林火山』にちなんで一筆書いてみたいと 思っていました。今回は「風」について書かせていただきます。

   五月は「風」の季節です。 新緑を揺るがせて甲府盆地を吹き過ぎる風はなんとも言えず清々しく、 私たちを力づけてくれます。時には、希望や勇気を与えてくれます。 気が塞いでいて、何となくうっとうしい時など、戸外に出て風に当たると、 そうした気分が一新されます。どうやら、風には不思議な力があるようです。

   聖書の世界では「風」は大切な用語として使われています。 新約聖書は古いギリシャ語で書かれていますが「風」には「プネウマ」という 言葉が用いられています。「プネウマ」には「風」の他に「息」「霊」という 意味があります。詳しくは神様が吹きかける「息」、神様が注ぐ聖なる「霊」と 理解してよいでしょう。 わたしたち人間は神様によって土から創られ、この人間に神様は命の息を 吹き入れられたので「生きる者」となったというのが、聖書の教える人間観です。 人間は神様の聖なる働きかけによってかけがえのないいのちを与えられ、 生かされているのです。 神様はわたしたちをいつも見守っていて下さいます。わたしたちが、元気に、 喜びをもって生きていけるように、必用な時にはいつも命の息を吹き入れて くれます。聖なる風を送ってくれるのです。

   私は弱い人間ですので、落ち込んだり、行き詰ったりすることが時々あります。 そうした時、気持ちの良い一陣の風に吹かれると、心身がリフレッシュされ、 「やる気」が起こる。そうしたことを度々経験しています。フランスの詩人に ポール・ヴァレリーという人がいます。ヴァレリーの詩に次のような一節があります。

  《風たちぬ、いざ生きめやも》

  行き詰まったり、絶望に打ちひしがれている者に、不意に、どこからともなく吹き立った 風が新しい生への衝動を感じさせ、力づけるという意味が込められているすてきな詩です。 堀辰雄はヴァレリーの詩をモチーフにして詩のように美しい小説『風立ちぬ』を書いています。 《風立ちぬ いざ生きめやも》は、私の愛誦する詩の一つになっています。

   教会のカレンダーに「ペンテコステ」という行事があります。キリスト教にとっては クリスマスやイースターに並ぶ大切な行事の一つです。「ペンテコステ」とは聞きなれない言葉です。 「五旬祭」(ごじゅんさい)とも言います。今年は五月二七日が「ペンテコステ」の日にあたり、 教会ではこの日に特別の意味を込めた礼拝が守られます。 もともと「ペンテコステ」はユダヤ教のお祭でした。「過ぎ越しの祭」から五〇日後に 祝われるお祭でした。イエスの時代も大切なお祭として祝われていました。イエスの弟子たちは ユダヤ教の慣習の中で暮らしていましたからこの日を大切な日として祝っていました。 十字架の死から復活して弟子や多くの人々の前にその姿を現わされたのち、 イエスは天(神のもと)に昇って行かれました。昇天から五〇日たった この日―「ペンテコステ」の日、残された弟子たちはエルサレムの街のある家に集まって 聖霊が下るのを待っていたのです。何故なら、天に昇る前にイエスは弟子たちに 次のように約束されたからです。

「エルサレムを離れず、前にわたしから聞いた、父の約束されたものを待ちなさい。 ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがたは間もなく聖霊による洗礼を授けられるからである」
(使徒言行録一章四―五節)

「あなたがたの上に聖霊が降ると、あなたがたは力を受ける。そして、エルサレムばかりでなく、 ユダヤとサマリアの全土で、また、地の果てに至るまで、わたしの証人となる」
(同一章八節)

そして、この日一同の上に聖霊が降ったのです。

「五旬祭の日が来て、一同が一つになって集まっていると、突然、激しい風が吹いて 来るような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた。そして、炎のような舌が 分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった。すると一同は聖霊に満たされ、 霊が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話し出した」
(同二章一―四節)

この日、神様から聖なる風(聖霊)を吹き注がれた弟子たちは喜びに満たされ、勇気百倍、 ユダヤ全土のみならず世界に向けて神の福音を宣べ伝えて行ったのです。「ペンテコステ」 世界に向けての宣教の派遣の開始の日、教会の誕生日とも言われます。 弟子たちは、この日をもってまるで力強い追い風を帆に受けた船のように、神様に背中を 押されて世界へと旅立って行ったのでした。

   思うに「風」の不思議な働きでした。この不思議な「風」は毎日吹いています。 「風」は目には見えませんが、今日も私たちに向かって吹いています。 私たちはこの「風」によっていのちを与えられ、勇気づけられて生きていけるのです。

「ふしぎな風が」

ふしぎな風がびゅうっとふけば
なんだかゆうきがわいてくる
イエスさまの おまもりが きっとあるよ
それが聖霊のはたらきです
主イエスのめぐみは あの風とともに

ふしぎな風がびゅうっとふいて
心の中までつよめられ
神さまの子どもに きっとなれる
それが新しい毎日です
わたしの命も あの風とともに
(『こどもさんびか改訂版』九四番「ふしぎなかぜが」作詞・作曲 川上盾)


戻る

新堀 邦司(にいほり・くにじ)先生

1941年2月 埼玉県に生まれる。
1963年 中央大学法学部法律学科卒業
2002年 本園の「せいあいだより」に寄稿開始。
恵泉女学園事務局長。俳句結社「日矢」同人。
著書:『青年の使徒』,『宣教師に育まれた料理人』,『海のレクイエム』
『愛 わがプレリュード』,『野尻湖物語』,『神を讃う』ほか




Copyright © 2007, SEIAI Yochien.
本ページと付随するページの内容の一部または全部について聖愛幼稚園の許諾を得ずに、
いかなる方法においても無断で複写、複製する事は禁じられています。
mail@seiai.net