学校法人 聖愛幼稚園
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書き下ろし連載五十五
ベツレヘムの星

新堀邦司
                
彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。
(マタイによる福音書二章九節)

   冬はひときわ星座が美しい季節です。 わけても、甲府盆地の夜空にきらめく冬の星座はみごとで、 私たちに壮大なロマンと宇宙の神秘さを感じさせます。 「星祭り」というと俳句では初秋の季語になっていますが、 私は冬の季語にした方が合っているように思っています。

   キリスト教の暦では十二月三日から「待降節」に入ります。「待降節」(アドベント)とは、 救い主イエス・キリストのご降誕を待ち望む時という意味です。キリスト教国の人々は、 この日からクリスマスを祝う準備をはじめ、イエス・キリストのご降誕を待ち望む 言葉をこめて毎日のお祈りを神様に捧げます。 「待降節」を迎える頃になると、教会やキリスト教主義の幼稚園ではクリスマスツリー が飾られ、点灯式が行われます。私の勤める学園でもキャンパスのモミの樹が美しい イルミネーションで飾られます。点灯式でイルミネーションに明りが点った瞬間は なんともうれしく、こころが華やぐものです。神様から希望という大きなプレゼントを 贈られたような満たされた気持ちになります。 「待降節」の季節になると、私には一つの楽しみがあります。東京の銀座四丁目の ミキモト前に飾られるクリスマスツリーを見に行くのを楽しみにしています。 このツリーのモミの樹は軽井沢高原から運ばれてくると聞いています。 高さ十メートルのモミの樹が美しく飾られます。日本で一番美しいクリスマスツリーと 言ってよいでしょう。日が暮れると、モミの樹はイルミネーションが点灯され、 たとえようもなく美しく輝きます。銀座を行く人々はその前で立ち止まり、 しばらく夢の世界にひたります。そして、目を輝かせ、こころに希望の灯を点すか のように満ち足りた顔で歩きはじめます。こうした光景を見ていると、「待降節」とは つくづくよいものだと思わざるを得ません。

  人々は、何故、クリスマスツリーの明りを喜ぶのでしょうか。 明り、光は暗さ、闇の反対語です。昨今、社会のニュースも暗く、辛く、 希望のない話ばかりです。知らずのうちに、私たちは闇の中に生きているかのように 思い込んでしまっています。いつまでも、闇の中に生きているのは耐えられません。 誰もが、光を求めています。希望と愛の光を求めています。その象徴がクリスマスツリーの あの明るい美しさなのです。 昔の人々も同じでした。 イエスがお生まれになった時も闇が支配しているような暗く、絶望的な時代でした。 それだけにイスラエルの人々は真の光と希望、さらには神様の救いを求めていました。 その様な人々を救うために、神様は尊い独り子をこの世に遣わされたのです。 それがイエスの誕生でした。 イエスがお生まれになった時、ひときわ大きく輝く星が夜空に現れたと いわれています。その星に導かれて東の国から三人の博士が旅をして来ました。 星に導かれて彼らが到着したのは、当時の都エルサレムではなく、その先にある ベツレヘムという小さな村でした。その村のとある旅館の側にある家畜小屋でした。 大きな星は、家畜小屋の上に来ると、ぴたりと止まったのです。まさか、こんなところに 救い主が生まれるはずはない、不思議に思いながら博士たちが家畜小屋をのぞいてみると、 そこに生まれたばかりの赤ん坊が若い母親に抱かれて眠っていたのです。 側にいるのは若い父親と羊飼い、それに羊やロバたちでした。けれども、生まれた 赤ん坊はえも言われぬ大きな安らぎと希望を与えてくれたのでした。イエスに 出会った羊飼いや博士たちのこころに希望と愛の灯が点りました。

   私は「待降節」になるともう一つの楽しみがあります。それは、J・S・バッハの 「クリスマス・オラトリオ」を聴くことです。「クリスマス・オラトリオ」は圧倒されるほど みごとな演奏と合唱が特色です。クリスマスの喜びをこれほど輝かしく歌い上げたオラトリオは 他にないかもしれません。しかし、このオラトリオは、しばらく聴いていると悲しみの歌に変わります。 「血潮したたる主の御頭(みかしら)・・・」という歌詞と共に人間の罪を一身に負って 十字架にかかって死んでゆくイエスをうたいはじめます。幼子イエスがこの世に遣わされたのは、 この世の闇を光に変えること、人間の罪を贖い、真の希望と愛の灯を点すことでした。 バッハの「クリスマス・オラトリオ」にはそのことが信仰的にうたわれているのです。

   「待降節」を迎えると聖愛幼稚園にもクリスマスツリーが立てられ、 保育室にも「聖家族」や「三人の博士」が飾られて、園児たちのこころを華やがせます。 二学期をしめくくるイベントは何と言ってもクリスマス会です。幼い子どもたちが 演じるクリスマス・ページェントはいつ観てもよいものです。こころが暖まります。 子どもを通して大人が励まされます。光と希望と愛というすばらしいプレゼントを 子どもたちから大人が贈られる日―それがクリスマス・ページェントが行われる日です。


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新堀 邦司(にいほり・くにじ)先生

1941年2月 埼玉県に生まれる。
1963年 中央大学法学部法律学科卒業
2002年 本園の「せいあいだより」に寄稿開始。
恵泉女学園事務局長。俳句結社「日矢」同人。
著書:『青年の使徒』,『宣教師に育まれた料理人』,『海のレクイエム』
『愛 わがプレリュード』,『野尻湖物語』,『神を讃う』ほか




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