キリストの使徒パウロは地中海沿岸の国々を訪れて熱心に伝道をしました。 中でも、ギリシャの都市コリントの教会には深い関心を寄せていました。 パウロはコリント教会の設立に係わっていただけに、他の国を伝道していて もいつもこの教会の信徒の動向が気になっていました。彼はコリントの教会の 信徒に長い書簡を送っています。それが「コリントの信徒への手紙」です。 この書簡には、神の愛と慰め、教会や信徒のあるべき姿などについて パウロの熱い思いが語られています。

   今回、取りあげたのは「コリントの信徒への手紙一」の九章二四―二五節です。 古代ギリシャはスポーツが盛んでした。アテネをはじめコリントやその他の 都市には立派な競技場がつくられ、各種の競技が行われました。 選手たちは大勢の市民の応援を受けながら、速さ、高さ、強さを競い合いました。 みごと優勝した選手には観衆から惜しみない賞賛がおくられ、彼らの頭には オリーブの小枝で編んだ栄冠が被せられました。彼らは英雄のように 尊敬されたのです。パウロはコリントに滞在中、こうした光景を何度も見たのでしょう。

   ある時は、彼自身も興奮の渦の中に巻き込まれていたのかもしれません。 そうした光景を回想しながら、パウロはコリント教会の信徒に宛てて大事な 勧めをしています。それは「節制」についてでした。一流のスポーツ選手は 優勝を目指して徹底した節約をします。その意志の強さと厳しい鍛錬には 敬服させられます。優勝した選手にはその報いとしてオリーブの栄冠が おくられます。賞を得た選手はあたかも人生の勝利者になったかのようでした。

   けれども、パウロはそこに一つの問題を見ています。それはこういうことでした 。勝利者におくられる人々の賞賛は決して長続きしない。彼が作った記録は いつか破られてしまう。すると、人々の関心は次の勝利者に移り、やがて彼は 忘れられた存在になってしまうのです。その象徴があのオリーブの栄冠でした。 彼が忘れられると同時に、栄冠はいつしか枯れ果て、朽ちてしまうのです。

   わたしたちは一時的な勝利ではなく、朽ち果てることのない真の勝利を目指 すべきではないか。真の勝利を得るために節制すべきではないか。 これがパウロの勧めでした。

   スポーツの栄冠はたった一人の勝利者にしかおくられません。神様の栄冠は ちがいます。神様を信じ、みこころ御心に従って生きようと節制、努力する人に すべて等しくおくられます。神様からおくられる栄冠―それは「祝福」と 「永遠のいのち」に与るということです。

  十月は、幼稚園で運動会やプレイデイの行事が催されます。 園児たちはその日に備えて練習を重ねています。喜々として園庭を 駈けまわる園児たちを見ながら、将来、すべての園児が人生の勝利者となり、 神様から朽ちない栄冠をおくられるようにと願っています。