学校法人 聖愛幼稚園
〒400-0071
山梨県甲府市羽黒町618
TEL 055-253-7788
mail@seiai.net



書き下ろし連載三八
父の日に寄せて

新堀邦司
                
父よ、
御名が崇められますように。
(ルカによる福音書十一章二節)

  六月の第三日曜日は「父の日」です。「母の日」に比べると あまり注目度が高くないように思えます。これも父親の権威が失墜し、存在感が 弱くなったことの表われでしょうか。わが家も同じで父親の存在は子どもたちから 重く受けとめられてはいないようです。 遠く離れて暮らしている長男は「母の日」には必ず電話をしてきますが、 「父の日」には何の音沙汰もありません。父親とはそういうものなのでしょうか。 そのくせ、何か困ったことなどがあると、相談する相手は母親ではなく父親の方です。 そのせいか、妻から「お父さん、長男から電話ですよ」といわれると、 思わず緊張が走ります。父親は子どもより人生経験が長いとはいっても、 いつも期待に応えてあげられるわけにはいきません。正しい答えや適切な助言を 与えられない時が度々あります。そうした折、父親にできるのは 「さて、どうしたらいいかな」と一緒に考え、悩んでやることではないかと思います。 難問を一緒に考え、重荷をともに担おうとしてくれる父親がいてあげるだけでも ちがうのではないでしょうか。少しは、父親を頼り甲斐のある存在と思ってくれて いるのかもしれません。そう思って父親である私は自分を慰めています。

  思うに、昔から父と子の関係にはむずかしいものが あったようです。聖書の世界では父と子の関係はどのように書かれている でしょうか。「父」という言葉は、旧約聖書に六九五箇所、新約聖書に 三四六箇所でてきます。合わせて一〇三六箇所にものぼります。 聖書では「父」は多くの場合「神」の同一語として使われています。 父なる神は、まさに威厳の象徴です。とくに、旧約聖書に登場する神は 厳父といった感じを与え、人間には近づき難い存在のように思えます。 新約聖書では、父なる神はどのように書かれているのでしょうか。 新約聖書にはマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四つの福音書があります。 いずれの福音書もイエス・キリストの教え、愛の行為を書き記していますが、 注目すべきはイエスが父である神をどのように考えていたか、父なる 神とどのような関係にあったかです。

  イエス・キリストは神を「アッバ」と呼んでいました。 「アッバ」というのはアラム語(当時、イスラエルで使われていた日常語) です。日本語に訳すと「とうちゃん」「おやじ」といった言葉になります。 旧約聖書の神は近寄りがたい厳父でしたから呼びかけるとしたら「父上」 「父君」といった尊称を用いないと叱られそうです。これに対し、イエス・ キリストは神を「愛」そのものとしてとらえ、身近に、ともにいてくださる 存在として考えていました。もっともらしい尊称を唱えて遠ざけ、距離を置いて つき合うような関係ではなく、いつも身近に神を感じ、神と一体になって 生きておられました。そうした思いがあったからこそイエスは神に「アッバ」と 呼びかけたのです。ここでは、神に対する絶対の信頼が感じられます。 「信頼」・・・別な言い方をすれば「信仰」といってもよいでしょう。 イエス・キリストの生涯は神との絶対的な信頼で結ばれていました。私たちも、 このような強い絆でしっかりと結ばれていました。私たちも、このような強い絆で 父と子、両親と子どもが結びつくことができたら、どれほどすばらしいことかと 思わざるを得ません。

  イエス・キリストは、私たちがどのようにして神様に祈ればよいかを 教えてくれました。それが「主の祈り」です。

父よ
御名が崇められますように
御国が来ますように
わたしたちに必要な糧を毎日与えて
ください。
わたしたちの罪を赦してください。
わたしたちも自分に負い目のある人を
皆赦しますから。
わたしたちを誘惑に遭わせないで
ください。
(ルカによる福音書十一章二−四)

  「主の祈り」は「父よ(アッバ)」ではじまっています。 神を身近に感じさせるととても素晴らしい祈りです。 祈るということは、独り言ではありません。目の前に、私の祈り、 願いに耳を傾けてくださる方(神)がいらっしゃるからできることです。 イエス・キリストに倣って、私たちもいつも「アッバ」という気持ちで 親しく神様に呼びかけ、祈りを捧げましょう。 神様は必ずお聴き下さり、温かく見守り、導いてくださいます。

  「父の日」の父から子への贈り物、それは父が子どもと一緒に 神様に祈りを捧げてあげることかもしれません。 神に祈る父の姿を見て、子どもは人生の大切なことをきっと学び取ってくれる ことでしょう。

戻る

新堀 邦司(にいほり・くにじ)先生

1941年2月 埼玉県に生まれる。
1963年 中央大学法学部法律学科卒業
2002年 本園の「せいあいだより」に寄稿開始。
東京YMCA学院院長。俳句結社「日矢」同人。
著書:『青年の使途』,『宣教師に育まれた料理人』,『海のレクイエム』
『愛 わがプレリュード』,『野尻湖物語』,『神を讃う』ほか




Copyright © 2004-2005, SEIAI Yochien.
本ページと付随するページの内容の一部または全部について聖愛幼稚園の許諾を得ずに、
いかなる方法においても無断で複写、複製する事は禁じられています。
mail@seiai.net