学校法人 聖愛幼稚園
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聖書のお話
書き下ろし連載三二
サイレント・ナイト
−静かなる賛美−

新堀邦司

                
すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して 言った。
「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に かな適う人にあれ。」
(新約聖書ルカによる福音書二章十三〜十四節)

  間もなくクリスマスを迎えます。言うまでもなく、 クリスマスは神の御子イエス・キリストの誕生を祝う喜ばしい日です。 教会で、幼稚園で、そして家庭でも救い主のお誕生の礼拝や祝会が行われます。 聖愛幼稚園では12月18日にクリスマス会が行われます。園児たちは、 この日を心待ちにしながら、一生懸命に歌や降誕劇の練習を続けています。 保護者の皆様もきっとこの日を楽しみにしておられることと思います。 お子様の元気な歌声を聴いたり、劇を観ながら、この一年のわが子の成長ぶりを 嬉しく、頼もしく思われることでしょう。

  クリスマスが近づくと、街のあちこちで賑やかな曲や 歌声が聞こえてきます。商店街やデパートに行くと「ジングルベル」が 大きな音で一日中流れています。「ジングルベル」を耳にすると、 何か急にせきたてられるような気持ちになってしまい、落着きをなくしてしまう。 師走の街を急ぎ足で歩いてしまうのは私だけでしょうか。こうした歌に 加えてボリュームいっぱいにした「第九」のコーラス。 さらには車のクラクションがけたたましく響いてきたりすると、街の喧騒は いっそうとひどいものになります。気のせいでしょうか。こうした喧騒が 年々ひどくなっているように感じられます。わたしたちは音に対してだんだん 鈍感になっているのかもしれません。その意味で、子どもたちには小さい頃から、 本当によい音楽を聴かせなくてはいけないと思います。幸い、クリスマスに 歌われる讃美歌は美しく、静かで、聖なる趣きのあるものがほとんどです。 魂に響く曲をしっかりと聴き、歌うことはお子さまの情操教育にとって とても大事なことです。

  クリスマスシーズンは昔から賑やかで騒々しかった わけではありません。私のこどもの頃(もう半世紀も前のこと)は、 この国はずっと静かだった。それだけに、教会や幼稚園で歌われる讃美歌は 魂に響く、印象深いものだったように思います。

  ところで世界で最初のクリスマスはどうだったのでしょうか。 新約聖書ルカによる福音書二章には、救い主イエス・キリストの誕生の様子が 書かれています。その夜は星々が静かに美しく天に輝いていました。 救い主は世の片隅―ベツレヘムという小さな町の家畜小屋で―誰からも 注目されることもなく産声を上げたのでした。そして、救い主誕生の知らせは、 天使によって、名も無く貧しく暮らしている羊飼いたちに告げられました。 静かで闇の深い夜に、突然、神の栄光に照らされて知らせを受けた 羊飼いたちはさぞ驚いたことだったでしょう。知らせを受けて乳飲み子を 見に行く羊飼いの上に、天使や天の大群が歌う賛美の声が高らかに響きました。

「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、 御心に適う人にあれ。」

  クリスマスの夜の静と動、静けさと天使の合唱のコントラストは とても印象的な光景です。天使が離れ去ったあとには再び静寂が訪れ、 羊飼いたちは生まれたばかりの救い主を探しあてて大きな喜びと深い感動に 浸るのでした。彼らは幼子のもとを離れ、町や村の人々にこの良き知らせを 伝えるために星々の輝く世界に出て行きました。きっと、心の中で神様を賛美し、 歌いながら道を急いだにちがいありません。 彼らが心の中で歌う讃美歌が聞こえてくるようです

  クリスマスには声を出さずに心の中で歌う讃美歌もすばらしい ものだと思います。私の知り合いに中国人のS牧師がいます。彼は、東京の ある教会で牧師をしています。生まれ育ったのは咸陽という歴史ある町です。 咸陽は西安(唐の時代の都・長安)の近くにある町です。彼の父親はこの町 の教会の牧師をしていました。1960年代の中頃から10年間、中国全土に 「文化大革命」という嵐が吹き荒れました。宗教活動は全面的に禁止され、 教会堂も聖書も讃美歌もすべて没収されてしましました。厳しい弾圧のため、 牧師の家族は教会を追い出され、民家に避難して苦しい暮らしをしなければ なりませんでした。礼拝を守れなくなり、牧師も信徒も途方に暮れました。

  ある年のクリスマスの夜、牧師の家に秘かに何人かの信徒が 三々五々集まってきました。礼拝を守るためです。他の人に見つかったら 一大事です。牧師も信徒も決死の覚悟でクリスマス礼拝を守ろうとしたのです。 やがて静かに礼拝が始まりました。聖書はありませんでしたが、 牧師は暗唱していた聖書の箇所―救い主誕生の聖句を読み上げ、説教をし、 祈りを捧げました。もちろん小さな、小さな声で囁くように。牧師の一言々々が 信徒の心の奥底に響いたのです。渇ききった海綿が水を吸い取るような思いで 信徒たちは耳を傾けていました。そして最後に、全員で讃美歌を歌った。 口を大きく開けて、高らかに、しかし、誰一人声を発することなくクリスマスの 讃美歌を歌ったそうです。「きよしこのよる・・」(英語では「サイレン・ナイト  ホーリー・ナイト・・」)まことに静かな静かな無音の合唱でしたが、 歌う人の顔は喜びに輝いていました。この無音の歌声は家屋を突き抜けて星空に 上がり、きっと神様のもとに届いたことでしょう。

  最後に「救いの御子の降誕を」という詩を紹介いたします。 作者は水野源三さんです。水野さんは長野県の人です。1937年生まれ。 小学校の時に赤痢に感染。高熱のために重度の脳性小児麻痺となり、 四肢の自由を奪われ、発声の機能も失ってしまいました。しかし、五十音の 文字盤を用いて目配せしながら次々と珠玉の詩を生み出しました。 それゆえ「瞬(まばた)きの詩人」として知られています。

一度も高らかに
クリスマスを喜ぶ賛美歌を歌ったことがない
一度も声を出して
クリスマスを祝うあいさつをしたことがない
一度もカードに
メリークリスマスと書いたことがない
だけどだけど
雪と風がたたく部屋で
心の中で歌い
自分自身にあいさつをし
まぶたのうらに書き
救い御子の降誕を
御神に感謝し喜び祝う

  皆さま、よいクリスマスをお迎えください。 その日には、声を出して、あるいは声を出さなくても心の中で、 清らかに、高らかに讃美歌を歌って救い主の誕生を祝いましょう。


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新堀 邦司(にいほり・くにじ)先生

1941年2月 埼玉県に生まれる。
1963年 中央大学法学部法律学科卒業
2002年 本園の「せいあいだより」に寄稿開始。
東京YMCA学院院長。俳句結社「日矢」同人。
著書:『青年の使途』,『宣教師に育まれた料理人』,『海のレクイエム』
『愛 わがプレリュード』,『野尻湖物語』,『神を讃う』ほか




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